約 1,746,285 件
https://w.atwiki.jp/www-iris/pages/121.html
「楽しませてくれよ!!」 【名前】 ジャイロマン 【読み方】 じゃいろまん 【分類】 ネットナビ 【オペレーター】 チャーリー・エアスター 【属性】 無属性 【所属】 チームオブブルース 【登場作品】 『5 チームオブブルース』 【基本装備】 トルネードアーム 【ナビチップ】 ジャイロマン(チップ) 【関連チップ】 Gエアフォース 【アニメ版CV】 岸尾 大輔 【詳細】 風のように自由気ままな性格をしているチャーリー・エアスターが所有するネットナビ。 オペレーター同様に陽気で自由気ままな性格。 リベレートミッションでは「偵察役」を担当。 しかし、その実力は本物であり、類まれなる機動力とジャイロモードというヘリコプターへの変形能力で、エリアを縦横無尽に駆け回る。 伊集院炎山からリベレートミッションへの参加要請を受けたチャーリーの指示の元、ロックマンの力量を図るためにマグネットマンの思考プログラムを強奪、追ってきた熱斗達と逃走劇を繰り広げた。 その後、腕試しの戦いを通して2人の力量を認め、チームに加入。ロックマンにジャイロソウルの力を発現させた。 リベレートミッション中の特殊能力として、ダークパネルに接触すると自動でジャイロモードに変形し、他のナビでは通行できないダークパネルの上を通過できる。 オーダーコマンドは「爆撃リベレート」。ジャイロモードでダークパネルを上空から爆撃し、無条件でリベレート出来る。ただしアイテム入りのパネルやヤミの穴には使えない。 戦闘時も、穴パネルの上に行くとジャイロモードに変身する。この状態だと無敵になる上、バスターで相手全員を同時に攻撃できる。 『5DS』ではリベレートミッション中にトランスポーターチップを用いると、同じ偵察役の技量があるシャドーマンへとチェンジできる。 元ネタは本家『ロックマン5』に登場する同名のロボット。 メインカラーが黄色に変わったほか、胸部がキャノピーになりよりモチーフのヘリコプターが分かりやすくなった。 イラストの完成段階では水色をメインとした色調のナビデザインだったが、変形した際の姿がある変形ロボットにそっくりになってしまったため、急遽 黄色をメインとした色調に変更になったらしい。 バトル時 バトルにおいても人型とヘリ型の2つの形態を使い分け、ロックマンを翻弄する。 ヘリ型モードの時はこちらの攻撃が当たらないという特徴を持つ。 ジャイロカッター 背中のヘリのプロペラを投げつける。 一度だけ斜めに曲がる追尾性能を備えているので、引きつけてから回避したい。 カッター自体はブレイク性能の攻撃でも破壊不能な一方、貫通効果を持たないので置物などに当たると消える。 アニメ『Stream』では「プロペラカッター」と呼ばれていることが非常に多い。 トルネードアーム 敵エリア最前列に現れ、そこから横3マス範囲の竜巻攻撃を放つ。この攻撃は風性能を持つ。 ジャイロソウルの同名の溜め撃ちと同じく、ジャイロマンの目の前が1ヒットで、その奥のマスで2ヒット、3ヒットとなっている。 ジャイロカウンター バスター攻撃などの射撃攻撃をジャイロマンに放った際に使用する。 瞬時にヘリ型モードへ変形し攻撃を回避すると共に、こちらのいるマス目掛けて3連射の射撃で反撃してくる。 ジャイロエアフォース ジャイロマンがヘリ型モードへ変形し、こちらへ一直線に飛行。 さらに、こちらのエリア内に侵入すると縦1列毎に爆弾を投下してくる。 どの列に何個の爆弾をどのマスに落とすかはランダムなので、すり抜けるように横移動で回避したい。 ジャイロバスター アニメ『Stream』にてジャイロマンが使用した技。 元ネタは、原作でジャイロマンをはじめとした殆どのナビに標準装備されているバスター攻撃だろう。 アニメ版 『Stream』第5話「空飛ぶナンパ野郎!」にて、オペレーターのチャーリーと共に初登場。 原作とは異なり、ナンパ・お気楽気質なチャーリーを咎める真面目な一面が追加されている。 第5話「空飛ぶナンパ野郎!」では、世界中のワイリーコレクションを強奪していく砂山ノボルと彼のアステロイド・デザートマンを追っており、DNNのサイバーワールドなどへ侵入し情報収集を行っていた。 この際、熱斗には自分達が今回の事件の犯人であると勘違いされネットバトルの展開となるが、ブルースソウルやサーチソウルを駆使するロックマンと互角以上に渡り合うという実力の高さを誇示。 この事件以後はチャーリー共々、熱斗やロックマンの心強い仲間となる。 第10話「ラプソディ イン ピンク」で再登場し、ナルシー・ヒデと彼のアステロイド・ビデオマンが起こした事件を解決すべく、ロックマンやロールと共にビデオマンと対決。 この回では自身がヘリモード(ジャイロフォーム)に変形し、ロックマンとロールが掴むことで輸送するという一面を見せた。 さらに、ビデオマンとの戦いの中でロックマンと共鳴し、ロックマンはソウルユニゾン・ジャイロソウルを発現させた。 第41話「極秘指令C.F.」では、オペレーターのチャーリーとのシンクロ率の高さから彼とのクロスフュージョンを成功させている。 最終話「新たなる未来へ」では、配下となるよう勧めるデューオに対し、ジャイロマン自身は「相棒と空を跳ぶのが好き」として断っている。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1722.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 崩れ落ちたニューカッスル城。 その礼拝堂に、まだ略奪者の手は及んでいなかった。 そこに、二人の変わった姿の男が居た。 片方はあくまでここでの基準でだが、 もう片方は黒の異装を身に纏い、何処にいてもおかしい格好だった。 「……胸くそ悪いな」 「そう言うものだ」 若い方の男が呟く。もう片方の男は、静かに返す。 互いに顔を合わせようとしない。背中合わせで会話していた。 「勿論、戦争をするわけではない。その背後に蠢く者達を討つのだ」 それを聞くと、若い男は感情を落ち着かせて、会話を続けた。 「……わかった、やってやる」 「そうか。礼を言おう。 ……それでは話を変えよう。今の仕事以上の給料は出す。 また、週に一日戻っても良い」 「……金あるのか?あんたらって」 男はその質問には答えず、続ける。 「また、危険手当も出る。危険な仕事だからな」 「……まあいいけどよ」 「あと、此方で活動する際の拠点と仕事を供与しよう。 残念ながら融通は利きそうにないが」 「あんたらって……」 またもや、返事はない。 そこで、男達が振り返って互いに見合う。 「……ところでだ、丸腰というのもあれだ、何か拾っていったらどうだ?」 「そんな気はおきない」 素っ気なく返されたその言葉に、 男は足元に刺さっていた紅い剣を抜き、目の前の青年に投げ渡した。 青年はそれをちょっと危なさから引きながらも受け取る。 「だが、お前が持ってかなければ略奪者に奪われるだけのことだ。 まだお前が持って行った方が報われるだろう」 「……いや、色々と問題があるだろ」 「古墳で盗掘してた人間のセリフとは思えんな」 青年は汗をかきながら無言でその剣を持ち直す。 遠くの方で聞こえていた声と音が近づいてきた。 「ふむ、そろそろ来るな。私達も去るとしよう」 男達が互いに互いの方へ歩き出す。 触れ合う寸前かの時に、黒衣の男がマントを翻し、自らと青年を覆い隠す。 すると、その数瞬後には男達の姿は消えていた。 「……今誰か居なかった?」 「気のせいだろう……此処にいるのは、我々と死者だけだ」 男達の姿が消えてすぐ後、一組の男女が現れた。 土くれのフーケと、元グリフォン隊隊長、ワルドである。 フーケは切り落とされた、先のない腕を見て言う。 「その腕、奴らにやられたんだって?」 「……そうだ」 「大したもんじゃないか、あいつらも」 ワルドは無言で、杖を振る。 竜巻がそこかしこに散らばるがれきを吹き飛ばした。 ウェールズの亡骸や、ワルキューレの残骸やらがあらわになる。 が、ワルドはそれらは一瞥しただけで辺りを見回す。 「やはり、居ないか」 「包囲から逃げ出せたってのかい?」 「その包囲をかいくぐって此処まで来たようだったからな」 二人は少し歩き、ウェールズの亡骸の前に立つ。 ワルドは立ち止まったと言うだけでそちらを見もしない。 「あら、ウェールズ様もこうなっちゃあ他の奴らと同じだねぇ」 フーケが嫌な笑みを見せる。 とはいえ、誰がそれを見たわけでもないが。 と、そんな二人に遠方から声がかけられる。 「やあ、ワルド子爵!件の手紙は見つけられたかね? アンリエッタがウェールズにしたためたという、件の恋文は!」 その声の方へ二人が振り向くと、 球帽を被った快活そうな男が近寄ってくるところであった。 「いえ、申し訳ございません。手紙は持ち去られてしまったようです。 ……何なりと罰を申しつけくださるよう」 ワルドがそう言い膝をつこうとするのを手で制止して、 その男はワルドの目の前まで歩み寄ってきた。 「なに、気にすることはないぞワルド子爵! 君は既にウェールズを討ち果たしたではないか! ほら、そこに倒れているのは彼であろう?」 そういい、その男はウェールズの死体を視線と身振りで示す。 二人は一度それを見やってから、再び男に視線を戻す。 「ですが、閣下から賜った任務に失敗したのは確かでございます」 「気にすることはない!君は十分な働きをしてくれた!」 閣下と呼ばれた男は快活に笑ってみせてから、 ゆっくりとウェールズの死体に近寄り、かがみ込んだ。 「不思議なものだ、彼と私は敵同士だったのだが…… こうしてみると、まるでそんな気は起きないものだ―― いや、死んでしまえば誰もが友人だ。そうは思わないかね?」 その言葉に対し、ワルドは語りかけられているのがようやく自分だと気付く。 返す言葉がイマイチ見つからないので、代わりに笑ってみた。 男はそれを肯定と取ったらしいが。 「……ふむ、ならば死せる後ならば、 私達の仲間に成ってくれるとは思わないかね?」 「死人を仲間に加えてどうしようってんだい?」 その声に、男がフーケの方を顔を振り向かせ、 次に立ち上がってワルドの方を向く。 「子爵。私に彼女のことを教えてはくれないかね? これでも未だに僧籍に有る私には、 女性に話しかけるというのは少々躊躇われるのでな」 「彼女が『土くれのフーケ』です」 「そうか!君が『土くれのフーケ』か! いや、君のような者が仲間になってくれるなら心強いことこの上ないな!」 そう言ってその男はフーケに一礼する。 「ところで、死人を仲間に加えてどうする、とだったかな?」 「まさか、蘇らせる訳じゃないだろうね」 「そのまさかなのだがね」 その男は指輪をした手で、腰に差してあった杖を引き抜いた。 「『虚無』をお見せしよう」 男が杖を振り上げると、指輪が日の光を浴びて輝いたように見えた。 男は短く唱えて、振り下ろす。 その後起こったことにフーケは驚きの表情を見せる。 見る見るうちに死体だった筈のウェールズの肌に生気が漲っていく。 そして、目を開くと、ウェールズは立ち上がった。 「おはよう、皇太子」 「……おはよう、大司教」 男の挨拶に、ウェールズは微笑みながら返した。 「失礼ながら、今は皇帝なのだよ、皇太子殿」 「そうだった。これは失礼した、閣下」 ウェールズはそう言うと男の前にひざまずく。 「ウェールズ君、君を私の親衛隊に加えたいのだが、どうかね?」 「喜んで」 「どういうことだい……これは」 「そうだ、申し遅れたね」 男がフーケに向き直る。 そして帽子の位置を直してから、両腕を広げる。 「私はオリヴァー・クロムウェルと言う。議会の皆の支持により、 『レコン・キスタ』の総司令官をさせて貰っている」 「……またため息をされましたぞ、姫殿下」 アンリエッタは部屋から窓の外の曇った空を見上げていた。 今頃、ルイズ達はどうしているだろうか? ウェールズ様を連れてきては頂けるだろうか― ため息をつく。 「姫殿下」 「……あ、なんでしょうか?」 今初めて気付いた、と言わんばかりの様子でマザリーニの方を向き、返答する。 その反応に、今度はマザリーニが額に手を当てながらため息をつく。 「姫殿下、もはや数えることは無意味と思い止めましたが― 王族たるものー」 「私は数えていますわ。言われるのはそれで7回目です―― あなた以外、此処には居ませぬ。構わないでしょう」 そういって、アンリエッタは再び空を見上げる。 離しはそれで終わりと言うことなのだろうが、 それでもマザリーニは静かな口調で言う。 「何を心配されているのです?」 「心配事など、ありませんよ」 「……魔法衛士隊の隊長、ワルド子爵が数日前から居りませんな」 アンリエッタがはっとした顔をして、マザリーニの方を振り向く。 マザリーニは表情を変えず、そのまま続ける。 「調べてみたら、魔法学院の生徒も数人いなくなっておるようですな。 更に言えば、そのすぐ後にラ・ロシェールにて襲撃事件が発生しております」 「そ、それは本当ですか!?」 「やはり、殿下の命で動いていたのですな……」 マザリーニがため息をつく。 顔を上げて、アンリエッタを見て 「しかし、一体何の任務を?」 「それは――言えません」 「……はぁ。言えぬのならばいいですが……」 そこで、外の方からガヤガヤと騒ぎ声が聞こえてくる。 アンリエッタとマザリーニはその声に釣られて外を見る。 「何でしょうか、騒がしいですな……」 「あれは――」 アンリエッタは外の様子を見るやいなや、部屋から駆け出す。 「殿下、何処に行かれるのです!」 「密命が故、話すわけには参りませぬ」 「ならば、此方としても通すわけには行かぬ」 あの後、こっそり例の秘密の港まで潜みながら行き、 嫌がるタバサの使い魔に無理矢理全員乗って、 王宮に降りてきたら、これである。 まぁ、警戒しているところにいきなり竜で乗り付ければ こうなるのは当然とも思えるのだが。 最初の方は完全に怪しい者への態度だった。 ルイズの名前を出して、ようやく話を聞いて貰っている状態である。 ルージュはルイズに囁く。 「ルイズ」 「なによ」 「別に言伝を頼めればそれで良いんじゃ?」 「密命なのよ、他人に話すわけにはいかないわ」 「帰りました、だけで十分――」 「何を話しているんだ?」 此方に尋問をしていた騎士の内一人が、此方を見据えていた。 ルージュはルイズが何かを言おうとするのを手で止める。 ルイズはむっとしたが、黙り込んだ。 「いえ、会わせて貰えぬのなら言伝をお願いできるでしょうか。 『帰りました』、とだけお伝えいただければお解り頂けるかと」 「……まぁ、その程度ならば問題はないと思うが……」 「そうですか、では私達はこれで」 「うむ、なにやら知れぬがご苦労様だったな」 「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!」 その声に、その場にいた者全員が振り返る。 「こ、これは姫殿下。いかがなされましたか」 「姫さま!」 「あぁ、ルイズ!無事だったのですね…… ……彼らは私の友人です。構いませんわ」 「は、そうでしたか。……失礼致しました」 アンリエッタに告げられると、騎士達は一礼してから去っていった。 「さぁ、話を聞きましょう。他の方々には部屋を用意します、ゆっくりとおやすみ下さい」 「何でくつろいでるのよ」 「え?」 謁見待合室に一度通された一行の内、 ルイズはアンリエッタに連れられていく。 ルージュは他の者と同じように、 少々豪華すぎる気がしないでもない椅子に腰掛けようとしたところ、 ルイズの一言がかかったわけである。 「疲れたし」 「そうじゃなくて、あなたも来なさいよ!」 「えー?」 不満の声が上がるが、ルイズはその身体の どこから出てるのか解らない腕力でルージュを引っ張っていく。 そのまま待合室を出て、アンリエッタの部屋に向かう。 「あ、あのルイズ、人を引きずるのはどうかと思うのだけど……」 「……それもそうですね。歩いて頂戴」 「いや、引きずられてたら立つこともままならないんですが」 「…………」 ルイズがその手を離す。 支えを失った身体が地面に転がりそうになるが、途中で肘を立てて、 そのままそれを支えに立ち上がる。 「何故僕まで?」 「使い魔とメイジは一心同体。当然でしょう」 「そうですか……」 そのままルイズの使い魔とは何か、 と言う話をBGMにしながらアンリエッタの部屋までたどり着く。 以前ルイズの部屋に来たときのように、アンリエッタは杖を取り出そうとする。 アンリエッタが呪文を唱え始める前に、制止が入る。 「必要有りませんぞ」 「……まだ、いたのですか」 「幸い、今のところ危急の用はありませんでな。 さて、私にも話をお聞かせ願えますかな、ミス・ヴァリエール」 ルイズはその声の主を見た。 暗い部屋と、窓の前に立っているが故の逆光で良くは解らなかったが、 目をこらしてみればまぁ解らないでもない。 枢機卿のマザリーニである。 此方に歩み寄ってきて、逆光から抜けたため、姿ははっきりと見える。 アンリエッタが、部屋の奥にある机に座る。 「さて、話を聞きましょう」 「解りました」 ルイズが一歩前に進み出る。 別にそんなことをせずとも聞こえるだろうが、 まぁ、特に意味はないのだろう。 「まず、手紙を取り戻すという任務には成功しました」 「……任務について詳しく聞かせて貰えるかね?」 「私達は、姫様から、同盟を妨げうる手紙の回収を命じられました。 ……手紙の内容は――」 マザリーニに向け、ルイズが説明をしようとするが、 途中でアンリエッタの方をちらと見る。 アンリエッタは、その視線を受けて俯く。 「……内容は」 「……やはり言わずとも良い。 同盟を妨げうる手紙、と言うだけで大体予測は付く」 「……ありがとうございます。 それで、これがその手紙です」 アンリエッタに近寄って、ポケットから手紙を取り出し、渡す。 それを静かに受け取り、中身を取り出して少し読み、 封筒にしまい込んで再び机の上に置く。 「確かに。それでは話を聞かせて貰いましょう」 ルイズは一つ一つ、事実を伝えていく。 初めのうちは落ち着いて聞いていたアンリエッタだが、 ワルドが裏切った事実を聞くと驚愕し、 ウェールズが殺された事を聞くと声を震わせて俯いた。 「そんな……それでは、私がウェールズ様を殺したようなものではないですか……」 「いえ、姫様。皇太子殿はもとより、お残りになるつもりでした」 「え……」 「……やはり、亡命を勧めになられたので?」 「……ええ、そうです」 アンリエッタは席を立って、窓の側に立ち、外を見る。 ルイズ達には背を向ける形になる。 「わたしね、あの人を愛してたのよ?」 「…………」 「けど、あの人は私より、名誉の方が大事だったのかしら……」 「そんなことはございません」 呟くように、だが静かな部屋では十分聞こえる声に対して、 ルイズははっきりとした言葉を返す。 「ウェールズ様は、姫様のことを思えばこそ、お残りになられたのです」 「私のため?私を残して死ぬことがッ!?」 「こう伝えろと、ウェールズ様が」 声を荒げたアンリエッタにルイズは調子を変えず、 毅然とした態度を保って続ける。 「『私は勇敢に戦って死んだ』、と。果たされはしませんでしたが」 「……だから、どうしたというのです!?」 「想ってもいない相手に、言葉を残すとお思いですか?」 「それでもッ……!私はッ!」 アンリエッタが叫びながら振り返る。 泣きかけているが、それでも泣かないのは意地かどうかは定かではない。 ルイズはアンリエッタのそんな様子を、じっと黙して見つめる。 そのうち、アンリエッタは平静を取り戻し、 視線に気付くと、乱れても居ない格好を直して、少し顔を赤らめさせる。 「……みっともないところをお見せしましたね」 そんなことは言われるまでもなく解ってます、と一瞬言いかけたルイズだが、 何とか自制する。とはいえ、かなり労力を割いたせいで返事は返せなかったが。 「……それで、話は終わりでしょうか?」 「ええ、報告は以上です……それと」 そこで言葉を切り、ルイズはポケットに手を入れる。 見覚えのある虹色の光が漏れ出すのを見て、アンリエッタが驚きの表情を見せる。 「それは―」 「ウェールズ皇太子から、形見として渡された品です」 「『風のルビー』……」 ルイズがアンリエッタに歩み寄り、恭しく指輪を差し出す。 アンリエッタはそれを丁重に受け取ると、握りしめた。 「姫様、『水のルビー』もお返しします」 「いえ、良いのです。それはあなたがお持ち下さい」 アンリエッタは杖を取り出すと、一言呟き、 風のルビーに向けて軽く振る。 サイズが彼女に合わせられたところで、アンリエッタはそれを自らの指にはめた。 「ルイズ、ご苦労様でした。魔法学院への馬車を用意しましょう。 それまで、ゆっくり休んでください」 「はい」 黙って話を聞いていたマザリーニがドアを開く。 ルイズとルージュ、そして最後にマザリーニが部屋から出て、扉が閉まるのを確認してから、 アンリエッタは机に突っ伏して、泣いた。 「この国は、本当に大丈夫だろうか……」 マザリーニはルイズ達を送る馬車の手配をしてから、執務室で独りごちた。 考えれば考えるほど、ネガティブな要素が出てくる。 ―まぁ、過去のことはともかく、 全くの素人と、ほんの少し話しただけの衛士を機密性の高い任務に向かわせたり、 どう考えても火種に成るであろう人物に亡命を勧める姫や、 最近高まっている貴族への反感や、『レコン・キスタ』、未だに空な王座。 それらが絡み合っての、全体的な忠誠心の低下。 正直言って、彼の内政手腕がなければ傾いている。 だが、一人では限界があるが故に、問題が色々とあるのだ。 魔法衛士隊の隊長が裏切り者と言うこともあるし、信用できる人物も少ない。 と言うより、元々彼は貴族には好かれていないのだ。 なので、自由に動かせる人手という物に、非常に欠けている。 「……ううむ。せめて信用できる情報源が欲しいが……」 「失礼する」 「……なんだね?」 といって、そちら、つまり机に座っている自分の背後を振り返ってから、気付く。 まず、ドアのノックがされなかった事を、 それから連想して、ドアが開いた気配が無いことを。 そして、その男がいつの間にか自分の背後に立っていたことを。 「……衛―」 「待ちたまえ、私は敵ではない。私が刺客なら、声などかけない」 「……それは別としても、怪しい人物であることに変わるまい」 マザリーニは、その男をじっと見回す。 黒の異装にに身を包んだその男は、もう何というか……場違いで、怪しかった。 男は回り込み、机を挟んでマザリーニと対峙する。 「話があってきた」 「……何故、私の所に来るのだ?」 「国を動かしているのはあなただと聞いている」 その言葉に対し、マザリーニは宮廷の現状を顧みて、 あざけるように嗤いを浮かべる 「……確かに、そのような物だな……」 「所で、話だけでも聞いて貰えるか?」 「……何だと言うのだ?」 「これを見てくれ」 そう言い、男は机の上に数枚の紙を放る。 マザリーニはそれを軽く読んだだけで、内容を理解した。 「……各地に保管されているマジックアイテムのリストか?」 「二枚目を見てくれ」 言われて、紙の束の後ろに1枚目を送り、二枚目を読む。 途中まで読んで、マザリーニははっとして手を早く動かし、 更に次の紙、それを流し読みしてまた次のページを見る。 最初の1枚目が目に入ってくるまでマザリーニはそれを続け、 そして顔を上げて男の顔を見る。 「……どういう事だ?」 そのリストは要するに。 各地のいわゆるマジックアイテム……その紛失事件をまとめた物であった。 ただし、最近の物のみで、羊皮紙数十枚にも成るほどの。 マザリーニは、取り敢えずその謎と、目の前の男の事を考えるより、 これからまた忙しくなりそうなことに頭を抱えた。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9135.html
前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔 ウルトラマンゼロの使い魔 第四十三話「ファルマガンとタバサ」 見習い怪獣ファルマガン 古代怪獣キングザウルス三世 剛力怪獣シルバゴン 登場 シャルロットがキメラドラゴン討伐の命を受けて『ファンガスの森』に入ってから数日が経過した。 現在は、茂みに身を潜めて待ち伏せをしている最中。これからジルが“獲物”をおびき寄せ、それを シャルロットが仕留める手筈なのだ。 しばらくして、目の前にジルが躍り出てきた。その後に、四本腕の熊のようなキメラが飛び出してくる。 シャルロットはそれに合わせて氷の矢を飛ばすが、寸前にキメラが上げた咆哮に動揺してしまい、わずかに 狙いがそれて肩に弾かれてしまった。 キメラは四本腕を振り上げてシャルロットに襲いかかるが、立ち直ったシャルロットは 魔法で高くジャンプして逃れた。そしてキメラの背中に、ジルの放った矢が突き刺さる。 キメラの注意がジルに向くと、地面に降り立ったシャルロットが呪文を唱え直して氷の矢を再度作った。 キメラを一撃で倒すには、矢を生物で最も弱い部分の一つ、目に当てなければならない。 当然至難の業だが、シャルロットはキメラに父と母の仇、ジョゼフの顔を重ねることで 静かな怒りを生じ、集中力を高める。 そして振り返ったキメラの目に、見事矢を突き刺した。 「……ギュ……、グォオオオオァ……」 キメラの呻きを耳にして、シャルロットは呆然とした。本当に、自分の矢が敵に通用した……。 「とどめ! 早く!」 ジルの叫びで我に返ると、太い氷の矢をキメラの胸板に突き刺した。それにより、キメラは 絶命して地面に崩れ落ちた。 それが、シャルロットが初めて敵を討った瞬間。初めて他の命を奪った瞬間で、ジョゼフへの 復讐の第一歩であった。 「あんた! やるじゃない!」 その夜、ジルはシャルロットを褒めた。彼女の活躍を、ファルマガンにも聞かせる。 「ファルマガン、シャルロットがとうとうやったよ。キメラを倒したんだ!」 「ジルが注意をひいてくれたからよ」 「そうだけど、やったのはあんたの“矢”だよ」 わずかに声が震えているシャルロットに、ファルマガンが声を掛ける。 「シャルロット、おめでとう」 「あッ……うん、ありがとう……」 初めて生き物の命を奪うことに、少なからず重圧を覚えていたシャルロットだが、ファルマガンの 祝福で少しばかり心が軽くなった。自分の頑張りを素直に称えてもらえるのはとても嬉しいし、 優しい言葉を掛けられるのも久しぶりのことに思える。 「シャルロット、あんたは第一歩を踏み出したんだよ。敵討ちと、お母さんを助ける第一歩をね。 今はまだまだ険しい道のりだろうけど、この調子でどんどん強くなって、でかい敵を討ち取るんだ。 あんたなら出来るよ」 ジルが応援の言葉を唱えた。この『ファンガスの森』で出会った二人に支えられ、シャルロットは 幸せと感謝の気持ちを覚えていた。絶望の淵にあった自分が、希望と自信を持てたのは、彼らのお陰だ。 と思いながらふとファルマガンに目をやると、蜂蜜に黄色い果実の汁を入れたものを舐めていた。 「甘い。すっぱい。美味しい」 「? ジル、ファルマガンは何を舐めてるの?」 「あれは蜂蜜にすっぱい木の実の汁を混ぜただけのものさ。けど、すっぱさが蜂蜜の甘みを引き出すから、 なかなか美味しいんだよ。ファルマガンはあれが好物なのさ」 ジルの説明を聞いて、シャルロットはファルマガンに呼びかける。 「ねぇファルマガン。わたしが任務を果たして、この森から去る時が来たら、それと同じものを 作ってあげるね。それならわたしにも作れそうだし」 「?」 「わたしを助けてくれたお礼、してなかったし。約束するね」 と言うと、ファルマガンは嬉しそうに声を弾ませた。 「約束。ファルマガンと、シャルロットの、約束!」 シャルロットは顔を綻ばせて、思う。 ファルマガンには本当に感謝している。命を助けられただけでなく、懸命に自分を励まして、 希望を与えてくれた。今頑張れているのも、彼の精一杯練習する姿に感化されたということもある。 本当に、ファルマガンは命と人生の恩人なのだ。 いつか、ジョゼフを倒して母を取り戻し、親子の平和な生活を取り戻した時は……ファルマガンとジルを 家に迎えよう! とも考える。ファルマガンは見た目こそ難があるが、自分の恩人と言えば、母も 迎えてくれることだろう。ジルはどうするか分からないが、ファルマガンとは家族になりたい。 一緒に、幸せな日常を作りたい……。 その日が来るのを夢見て、シャルロットは更にジョゼフに立ち向かう覚悟を形成するのであった。 シャルロットが『ファンガスの森』にやってきてから八日後。シャルロットとファルマガンは、 森の地面にくっきりと残った大きな足跡をたどって、直径四メイルはあろうかという洞窟までやってきた。 「ジル……」 ファルマガンが不安そうにつぶやくと、シャルロットはそれを慰め、同時に静かにさせる。 二人の視線の先では、ジルが洞窟の入り口の前で焚き火を焚き、弓矢を構えている。彼女に 自分たちのいることを悟られる訳にはいかないのだ。 昨日シャルロットたちは、森を徘徊するキメラドラゴンと遭遇した。運よくこちらの存在は 気取られなかったが、ジルは同時に、キメラドラゴンに生えている大量の首の中に、自分の妹の顔が あることに気がついた。キメラドラゴンは、食い殺した相手の首を生やす能力があるのだ。 キメラドラゴンが家族の仇と知ったジルは、自分一人で仕留めると言い出した。シャルロットと ファルマガンがいくら止めても聞かなかったので、心配になった二人はこっそり後をつけてきたのである。 やがて焚き火の煙によって、キメラドラゴンが洞窟から這い出してきた。全長十メイルほどで、 ドラゴンとしては大きいサイズではないが、胴体から無数の生物の首を生やした火竜の姿というのは、 あまりに不気味。シャルロットたちは思わず息を呑む。 キメラドラゴンはジルの存在に気づき、すぐに大口を開いて火のブレスを吐こうとした。 が、その能力は失われているようで、呼吸が漏れるだけだった。 代わりにジルが、口内に矢を放った。ただの矢ではない。こんな日が来た時のための切り札、 『アイス・アロー』。キメラドラゴンの喉の奥に吸い込まれたそれは、矢尻を中心に頭全体を 氷結させた。そして一瞬の間の後に、頭がバラバラにはじけ飛ぶ。 ジルの顔が、安堵にゆるむ。シャルロットも息を吐いたが、ファルマガンは急いで茂みの陰から駆け出した。 「危ないッ!」 「ファルマガン!? うわッ!?」 ファルマガンとジルはもつれ合って倒れ込む。それにより、伸びてきたキメラドラゴンの腕は空を切った。 「!?」 弾かれたように立ち上がるシャルロット。見ると、キメラドラゴンの胴体からは、失われた頭部に 代わる新しい首が生えてくるところだった。首を失っても死なないようだ。ジルもその状況を理解した。 「あいつ、まだ生きて……くそぅッ!」 仕留め切れなかったことを激しく悔しがったジルだが、すぐに気を取り直して、シャルロットに呼びかける。 「シャルロット、こうなったら、あんたがやってくれ!」 「わたしが!?」 「あたしにはもう、奴を倒すだけの武器がない。けど、あんたは違う。この絶好の機会を 逃す手はない。……あんたがあたしに代わって、家族の仇を取ってくれ!」 ジルの要請に、シャルロットは行動で応じた。杖を構えて呪文を紡ぎ、氷の槍『ジャベリン』を作り出す。 氷の矢とは比較にならない威力の魔法だ。 その呪文を成功させたことはこれまでになかったシャルロットだが、今は必ず出来る自信があった。 ジルの無念に、必ず応えなければならない。 精神力のほとんど全てを注ぎ込んで威力を限界まで高め、首が再生し切る前に氷の槍を放つ。 首が少女の顔を形作ろうとしたところで、槍は肉を貫き、身体の内側から弾けて全身を引き裂く。 シャルロットは、少女の顔が完成するところをジルに見せずに済んで良かったと考えた。 キメラドラゴンは全身の首から、ギャアアアアァ、とすさまじい断末魔を響かせ、どう! と倒れた。痙攣が止まり、今度こそ絶命した。 「ジル!」 シャルロットはすぐにジルの元へ駆け寄る。ジルはファルマガンの手を借り、立ち上がるところだった。 ジルは礼を述べる。 「シャルロット……ありがとう。一人で先走って、危うく犬死にするところだったよ。あんたはもう あたしなんかを超えた、立派な狩人だ」 「ジル……もういいの。あなたが生きてただけで、それで十分」 「ファルマガンも、ありがとう。あんたがいなきゃ、奴の爪にやられてたよ。本当に助かった……」 「どう、いたしまして」 全員が無事に命を拾い、キメラドラゴンを討ち取ったことで、三人は朗らかに笑い合った。 これでジルとシャルロット、双方の目的は果たされ、彼らは次の道へと進むことが出来るようになったのだ。 ……これから起こることがなかったなら。 「キイイィ!」 「!?」 突然木々の向こうから、キングザウルス三世の鳴き声が聞こえた。即座に振り返ると、 その持ち主がまっすぐにこちらへ接近してくるところであった。 「あ、あの巨大竜がこっちに! ジル、逃げよう!」 「ああ! このまんまじゃ、踏み潰される!」 シャルロットたちは急いで逃げようとしたが、キングザウルス三世の反対側からも、地響きが 近づいてきた。それで、ジルは一気に青ざめる。 「やばい……! 奴まで来る! 巨大生物の中でも群を抜いてやばい奴が! ほとんどの奴は、 あいつが殺したんだよ!」 「えッ!?」 顔を上げたシャルロットの目に飛び込んだのは、頭の両脇に大山羊のような曲がった角を生やした、 首と胴体の太さがほぼ同じの直立する恐竜型の怪物だった。全身がひび割れたかのように隆起しているが、 あのデコボコはもしかしたら、筋肉か? そうだとしたら、筋肉に全身包まれたあの怪物は、どれだけの 力を発揮するのだ? 「グギュウウウウウウウウ!」 『ファンガスの森』最後の怪獣、剛力怪獣シルバゴンは咆哮を上げ、キングザウルス三世と同様、 シャルロットたちの元へ迫ってきた。 「くそッ! どうしてこんな時に、怪物どもが同時にやってくるんだ!」 ジルが毒づくと、シャルロットはハッと気がついた。 「まさか、最後のキメラドラゴンの断末魔が、あの二匹を呼び寄せたんじゃ……」 「何てこった!」 ジルは降りかかる危機に恨みの声を吐いた。今の自分たちに出来ることは、怪獣たちに 踏み潰されないようにこの場から離れることしかない。三人は慌てて、少しでも遠ざかろうと走る。 「グギュウウウウウウウウ!」 シルバゴンはシャルロットらには構わず、自分と同等のサイズのキングザウルス三世に 敵意を向けて、そちらへ接近していく。 「キイイィ! キイイィ!」 キングザウルス三世は首をユラユラ動かして角からバリヤーを展開した。 「あの障壁は……」 キングザウルス三世のバリヤーは、ダンガーをあっさりと退けた強力な盾だ。シャルロットも その話を聞いているので、キングザウルス三世の圧勝だと予想する。 実際、シルバゴンはバリヤーにぶつかって、呆気なく押し返された。 「グギュウウウウウウウウ!」 だがバリヤーに遮られたシルバゴンは腹を立てると、腕を突き出してバリヤーに触れる。 そして次の瞬間に腕に力を入れ、バリヤーをガラスのように軽々叩き割ってしまった! 「嘘!?」 ダンガーは手も足も出なかったバリヤーを力ずくで攻略したシルバゴンに愕然とするシャルロット。 キングザウルス三世もあからさまに動揺した。 「キイイィ!」 後ずさりながら角からの波状光線を浴びせるが、シルバゴンはびくともしない。そして 長い首がむんずと掴まれて、吊るし上げられた。 「グギュウウウウウウウウ!」 「キイイィ……!」 剛力で首を絞められるキングザウルス三世は白目を剥き、ブクブクと口から泡が噴き出る。 そしてたちまち窒息死して、首と足がダラリと垂れ下がった。 「グギュウウウウウウウウ!」 キングザウルス三世が死んだことを確かめたシルバゴンは、その死体を投げ捨て、勝利を 見せつけるかのように激しくドラミングする。 そして落ち着くと、今度は逃走の最中のシャルロットたちに目を向け、追いかけてきた! 「わ、わたしたちには目もくれないんじゃなかったの!?」 「他の怪物がみんないなくなって、あたしたちだけになったからだろう! 早く逃げるよ!」 とジルは言うものの、歩幅が全く違う。三人は瞬く間にシルバゴンに追いつかれそうになる。 「もう駄目……!」 泣き言を吐くシャルロット。しかし無理もないだろう。先ほどの戦闘で精神力を使い果たして、 もう何の魔法も使えない。それでは逃げることも、ましてや立ち向かうことなど出来るはずがない。 喜びも束の間、最早これまでかと思ったその時……ファルマガンが二人から離れて、シルバゴンへ 大きく手を振りながら跳びはねた。 「こっち! こっち!」 「ファルマガン!? まさか、わたしたちのために囮に……!?」 シルバゴンは見事に釣られ、ファルマガンを追いかけてシャルロットとジルからは離れていく。 しかしこれでは、ファルマガンが犠牲になる。 「シャルロット、ファルマガンを助けてやって……! あたしはさっき突き飛ばされた時に足を痛めて、 追いかけられそうにない……! どうにか隙を見て、ファルマガンを連れて身を隠すんだよ!」 「う、うん!」 ジルの指示で、シャルロットは一人ファルマガンを追いかけていく。だがその時には、 シルバゴンが蹴り上げた土砂が降ってきた余波で、ファルマガンは大きく吹っ飛ばされた。 「ああああああああッ!」 「ファルマガンッ!」 地面に叩きつけられて動かなくなるファルマガン。生きてはいるようだが、このままでは風前の灯火だ。 とその時、叩きつけられたファルマガンの身体から、巨大怪物が現れる原因になったという 赤い球が放り出され、シャルロットの足元まで転がってきた。反射的に拾い上げたシャルロットは、 それに願いを込める。 「赤い球……これが本当に怪物を呼んだのなら……あの竜を倒して、わたしたちを助けてくれるような、 そんな勇者をわたしの前に出して! イーヴァルディのような勇者が、欲しいッ!」 イーヴァルディの勇者。ハルケギニアで広く読まれる英雄譚で、シャルロットもその話が好きだった。 ジョゼフの陰謀に追い詰められた時も、勇者がいてくれたら、と心の底から望んだものだ。 その望みを球に捧げると、赤い球は一瞬だけ強く発光した。 球の発光の直後に、騒乱に包まれる『ファンガスの森』のどこかに、突如として一人の青年が出現し、 地面に降り立った。青と銀の、ハルケギニアではどこにも見られない素材で出来た服装を纏っており、 その服の左胸には「XIG」という紋章が刺繍されている。 「ここは……? 一体どこなんだろう。僕は勉君の世界を救って、元の世界に戻るところだったんじゃ……。 ここは元の世界なのか?」 青年は自分が放り出された環境を見回し、呆然とつぶやく。しかしそれも束の間、シルバゴンの 咆哮とシャルロットの悲鳴が耳に届く。 「グギュウウウウウウウウ!」 「きゃああああああ!」 「この声は……!」 顔を上げると、シルバゴンの後ろ姿が見えた。それだけで状況を察する。 「誰かが怪獣に襲われてるのか! すぐに助けなきゃ!」 判断を決めた青年は、懐から青い発光体が埋め込まれた、V字型の小型の装置を取り出す。 そして取っ手を右手に握り締めたそれを前に突き出し、高々と叫ぶ。 「ガイアァァ―――――!!」 発光体から赤と青の輝きが発せられ、青年の姿が瞬く間に変貌。シルバゴンにも負けない背丈の、 胸に黒いラインの走った赤と銀の巨人となった! この世界では、彼のことを知る者はいない。しかしこの巨人は、イーヴァルディのような平和を愛し、 悪をくじく勇者なのだ。地球生まれの光の巨人で、根源的破滅招来体という巨悪と戦う正義の使者、 ウルトラマンガイアである! 「デュワッ!」 シャルロットが今にもシルバゴンに踏み潰されそうになっていたその時、ガイアは背後から シルバゴンに掴みかかり、足の振り下ろしを阻止した。 「えッ……!? あ、あの巨人は……!?」 シャルロットは当然、突然現れたガイアの存在に驚愕する。彼女の見ている先で、ガイアは 腕力を振り絞ってシルバゴンを投げ飛ばし、シャルロットを救った。 それからガイアはシャルロットを見下ろす。シャルロットは一瞬脅えて身体を震わせたが、 ガイアは安心させるようにうなずくと、起き上がろうとしているシルバゴンに向き直った。 「……まさか……あの巨人が、勇者なの……?」 先ほど赤い球に勇者を願ったことを思い出して、シャルロットはつぶやく。ガイアはその言葉を 肯定するかのように、左脇を引き締め右の平手を前に伸ばしたファイティングポーズを取ると、 命を脅かす大怪獣にまっすぐに向かっていく。 「デャッ!」 シルバゴンの懐に飛び込んだガイアは、チョップやパンチ、キックを目一杯お見舞いする。 が、シルバゴンは少しもたじろがない。 「グギュウウウウウウウウ!」 「オワァッ!?」 逆に、シルバゴンの打撃でガイアが殴り飛ばされる。 「デュワッ!」 ガイアは負けじと起き上がって、再度シルバゴンにぶつかっていくが、やはり打撃が通用していない。 今度も殴り飛ばされて宙を舞った。 「ウゥ……デュワァーッ!」 格闘が駄目ならと、立ち上がって光線技の構えを取る。立てた左腕に光輪が吸い込まれて エネルギーが充填されると、右手首を左手首に合わせ、光が尾を引く右腕を持ち上げていく。 そして左手を右腕の関節に乗せたポーズから、右前腕より赤い光の奔流が発射された! ガイアの必殺技の一つ、クァンタムストリームである。 「グギュウウウウウウウウ!」 クァンタムストリームは見事シルバゴンに直撃! 倒れるシルバゴンだが……すぐに起き上がった! 効いていないのだ! 「デュワッ!?」 たじろぐガイア。一方のシルバゴンは、何故かガイアがやったように腕をL字に組む。 ……が、当然何も出ない。 「……グギュウウウウウウウウ!」 シルバゴンは駄々をこねるようにドタドタ足踏みすると、ガイアに突進する。筋肉の塊に ぶつかられたガイアは大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。 「オワァァッ!」 シルバゴンの圧倒的パワーの前に苦しめられ、うつ伏せに倒れるガイア。エネルギーを消耗したために 胸のライフゲージが赤く点滅し出す。ピンチの合図だ。 「あぁっ! 巨人が……!」 戦いを見守るシャルロットは焦燥する。自分たちを助けてくれる勇者が来てくれたと思ったのに、 彼も怪物に太刀打ち出来ない。やはり助からないのか? 「グギュウウウウウウウウ?」 しかしここで、意外な事態。ガイアが倒れたまま動かない、攻撃の絶好の機会なのに、 シルバゴンはキョロキョロ辺りを見回して立ち尽くしているのだ。丸で、目の前にいるはずの ガイアを見失ったように。 「……そういえば……」 ここでシャルロットは思い出す。先ほどファルマガンが吹き飛ばされて動かなくなった時も、 シルバゴンは唐突に攻撃の手を止め、辺りを見回していた。ファルマガンに興味を失ったのかと思ったが……。 「まさか、動くものしか襲わないんじゃ……」 との考えが浮かぶと、起き上がろうとしているガイアへ慌てて叫んだ。 「動いちゃ駄目! その怪物は、動くものだけを攻撃するの!」 その助言を受けて停止するガイアだが、代わりに前に乗り出したシャルロットがシルバゴンの 標的になってしまった。 「グギュウウウウウウウウ!」 「あああぁぁぁッ!?」 シルバゴンが尻尾を振り回し、シャルロットはそれが巻き起こした土砂に呑まれて弾き飛ばされてしまった。 「デュワッ!?」 ガイアはたまらず跳ね起き、シルバゴンに飛び蹴りを食らわせる。当然怒って振り返る シルバゴンだが、ガイアは同時にピタッと静止した。 「?」 するとシャルロットの予測通り、シルバゴンは目の前のガイアを見失い困惑した。そして後ろを 向いた隙に、ガイアは両腕を頭上高くに伸ばす。 「オオオォォ……! デュワッ!!」 伸ばした腕を胸の前まで下ろすと、素早く左右に開く。同時にガイアの身体が激しく輝き、 体色に青が追加されてより筋肉質な体型に変身した。 これはもう一人のウルトラマン、アグルの力を授かったことで変身できるようになった最強形態、 スプリームヴァージョンである! ガイアは左肩を後ろに向け、右肩を前に出した体勢から 左腕を頭上に、右の握り拳を突き出した力強いファイティングポーズを取り、シルバゴンに飛び掛かる! 「デュワァッ!」 「グギュウウウウウウウウ!」 ガイアSVの強烈なパンチがシルバゴンに襲い掛かる! シルバゴンは反撃しようとするも その時には、ガイアは停止して見失う。無茶苦茶に腕を振るうも、そんな攻撃は空を切るだけであった。 「デャアッ!」 シルバゴンを散々殴りつけて弱らせたガイアは、その巨体をむんずと捕らえて投げる。 投げる、投げる、投げる、投げ飛ばす! 「グギュウウウウウウウウ……!」 繰り返し地面に叩きつけてフラフラに弱らせると、最後とばかりに空高く放り投げた。 そうして、胸の下で交差した両腕を開いて外回りに頭上へ持っていく。 「デュワーッ!!」 エネルギーが集まると、胸の前で腕を開いた勢いで光のブーメランを発射した。スプリームヴァージョンの 必殺技、シャイニングブレードだ! シャイニングブレードは投げ飛ばされたシルバゴンを追い、その身体を両断。シルバゴンは 瞬時に爆散して、『ファンガスの森』の露となった。 「や、やった……うぅッ!」 『ファンガスの森』の最後の怪獣が倒され、伏したまま喜ぶシャルロットだったが、すぐに苦痛にうめいた。 彼女の身体は、土砂に巻き込まれたことでボロボロの危篤状態であった。このままでは、間もなく命が失われてしまう。 ガイアは彼女を救おうと前に踏み出したが、己の身体がどんどん透けていくことに気づいて、思わず固まった。 『これは……!? 勉君の世界から一度消えた時の状況に似てる……!』 ガイアの中の変身者の意識は、瞬時にこの現象を判断する。 『この世界は、僕の世界じゃない。ここでの役割を果たしたから、今度こそ元の世界に戻ろうとしてるのか。 けれど……』 まだ少女を助けていないではないか。そう思うものの、身体は無情にも消えかかる。もう後数秒も この世界にはいられないだろう。 『名前も知らない女の子。誰か、僕に代わって彼女を助けてあげてくれ……!』 最後に望みを見知らぬ誰かに託し、ガイアはこの世界から消え去り、元の世界へと帰っていった。 これからも彼は、根源的破滅招来体との激闘に身を投じていくのだが、それは別の話だ。 ガイアが消滅し、騒乱が静まった『ファンガスの森』の中で、シャルロットの命は消えかけようとしていた。 そこに、ファルマガンが傷ついた身体を引きずってシャルロットの元に駆けつける。 「シャ、シャルロット……」 「ファルマガン……無事だったんだね……」 もう起き上がる力もないシャルロットは、ファルマガンに笑いかける。それは、何もかも 諦めた者の虚ろな笑みだった。 「あなただけでも、助かって良かった……。本当に、良か……」 と言いかけるシャルロットだが、すぐに目尻から涙がこぼれた。 「良くないよ……。せっかく……せっかく、キメラドラゴンをやっつけたのに……! お母さんを助けられると思ったのに……こんなところで、終わっちゃうなんて……!」 悔しそうにうめき、ポロポロ涙を流す。本当は、諦めてなんていないのだ。薄れていく意識の中に、 後悔ばかりが湧き上がる。 「嫌だよ……死にたくないよ……! 助けて……誰か助けてよぉ……!」 一度は死を望んだ少女は今、生を失うことを恐れた。その心からの言葉を耳にしたファルマガンは、腹をくくる。 「シャルロット……」 傷ついたシャルロットの頭に手をかざすと、淡い光を放出する。彼女の傷を治すつもりだ。 「ファルマガン……? 無理だよ……あなた、人の傷は、治せないでしょ……」 シャルロットは、ファルマガンが自分を治せるとは思えなかった。ファルマガンの能力は、 今の彼女の重傷を治癒できるほどには達していないのだ。いや、仮に高位の水のメイジがいたとしても、 匙を投げるところだろう。それほどの致命傷だ。 しかしファルマガンは、投げ出さなかった。 「練習。超える」 手の平からあふれる光が、どんどんと輝きを増していく。それは彼らの周囲を呑み込む勢いであった。 同時に、ファルマガンの頭の一部がバックリと割れ、穴が広がっていく。 「ファルマガン……!?」 足を引きずって、現場に駆けつけたジルがその光景を目の当たりにして、目を見開いた。 だがファルマガンは手を止めなかった。彼からあふれる光は、視界を白く塗り潰していく。 完全に光に包まれる前に、ファルマガンは空いている手で、シャルロットが拾った赤い球を掴み取った。 この赤い球は本来、災厄しか呼び込まない、世界にあってはならないもの。ファルマガンは元来優しい性格で、 「破壊」の意思など欠片も抱いたことがないが、この時だけは、シャルロットのために、持ち得ない意思を発現した。 「球……消えろ」 災厄を終わらせる、たった一つだけの方法によって、赤い球は粉々に砕け散って、文字通り 塵も残さずに消滅した。 そして、森は光に包まれた。 「……う……」 シャルロットが目を覚ますと、そこは元の場所であった。シルバゴンが残した破壊の爪痕も全てそのまま。 ただ一つだけ違うところは、自分の怪我が夢だったかのように完治しているところだ。 「嘘……!?」 すっくと立ち上がるシャルロット。もう悪いところはどこにもない。後遺症も見受けられない。 それに大きく喜ぶ。 「ファルマガンだ……! ファルマガンが、助けてくれたんだ……!」 「シャルロット……」 打ち震えているシャルロットに、ジルが近寄ってきた。彼女に振り向いたシャルロットは、 はしゃぎながら報告した。 「ジル、見て! ファルマガンがやってくれたの! 死にかけてたわたしの命を、助けてくれたの! ……でも、ファルマガンはどこに?」 辺りを見回しても、ファルマガンの姿が見えなくなっている。そのことについて、ジルは 重い面持ちで、はっきりと告げた。 「ファルマガンは……もう、いないよ」 「……え?」 言葉の意味が分からなかったシャルロット。ジルはよく言い聞かせる。 「あたしは、確かに見た。ファルマガンは、あんたを助けるために、全ての力を使い果たしたんだよ。 あんたを治した後……ファルマガンは……消滅したんだ……」 その言葉を受け止めたシャルロットは、絶句した。しばらくは何も考えられなかったが、はっと思いつく。 「そうだ、赤い球! あれが巨人の勇者を呼んでくれたんだよ。あの力を使えば、ファルマガンを……!」 しかし、その望みも絶たれる。 「赤い球も、ファルマガンが壊したよ。きっと、あんたがそうしないようにするためだろうね……」 ファルマガンがもう戻らないと悟ったシャルロットは、途端に自分の身体を激しく叩き出した。 「返して! ファルマガンを返してよ! ファルマガンを犠牲にしてまで、助かりたかった訳じゃない! 約束したのに! 家族に迎えようと思ってたのに! こんなのあんまりだよ! 返してぇ!」 「シャルロットッ!」 駄々をこねるシャルロットを、ジルが叱りつけた。 「やめな! そんなことしたって、時間は戻らないんだよ。それに……あんたは、ファルマガンの 想いを無駄にするつもり?」 「え……」 「ファルマガンは……あんたに生きててほしいと思ったから、自分の犠牲を省みずに、あんたを助けたんだよ。 そのあんたには……泣きわめいて後悔するより、しなきゃいけないことがいっぱいあるだろう。お母さんは どうするつもりなんだい?」 諭されて、シャルロットは手を止めてうつむいた。その目からは、涙がこぼれ続ける。 「……そうだ。あんたは、立ち止まってちゃいけないんだ。前に進み続けることが、ファルマガンの 想いに応える、唯一の手段なんだよ」 そのジルの言葉を最後に、シャルロットはあふれる涙をぬぐい、顔を上げた。 その目には、強い力と覚悟が宿っていた。あどけない少女の面影は、消えてなくなっていた。 それからシャルロットとジルは、住処の洞窟の横に、手作りの墓を建てた。ファルマガンの墓だ。 「……あたしは、この森に残ろうと思う。キメラはまだまだ生き残ってるから、『ファンガスの森』が 危険なところには変わりないんだ。そんな危険に迷い込む人を助ける狩人になる。両親がそうしてたように……」 ファルマガンを弔ってから、ジルはシャルロットに告げた。 「言われなくても分かってるけど……あんたはお母さんを助けるために、戦い続けるんだろう? 応援してるからね」 うなずいたシャルロットは、討ち取ったキメラドラゴンの鱗を取り出し、長い長髪をそれで断ち切った。 ジルは思わず驚く。 切られた青髪が風に乗って舞い散っていく中、シャルロットは冷徹な表情で、誓いを立てた。 「わたしは、今から、シャルロットの名前を捨てる。その名前は、母さまを取り戻した時に、一緒に取り戻す」 「……じゃあ、これからは何て名乗るんだい?」 ジルに尋ねられ、シャルロットではなくなった少女は、かつて自分が「タバサ」と名づけた 人形があることを思い出した。それは心を失った母が、シャルロットと思い込んで誰にも 触れさせないように守っている人形だ。今では、その人形が「シャルロット」なのだ。 そして自分は、代わりに人形となるのだ。表向きはジョゼフに従順を装いながら、奥底では 復讐を誓い続ける、研ぎ澄ました刃を隠した人形に。 「タバサ。わたしの名前は、タバサ」 その名を自身に刻み込むと同時に、タバサは墓とジルに背を向け、孤独な戦いの日々へと足を踏み出した。 前ページ次ページウルトラマンゼロの使い魔
https://w.atwiki.jp/sinsougou/pages/694.html
トリステイン魔法学院 タバサの部屋 虚無の曜日といわれる休日のその日、サイトと共に休暇を貰う事になったシンはタバサに部屋に呼び出されていた。 ちなみにシンの衣服は仕事中以外はパイロットスーツのままだったりする、その理由はそれ以外の着替えが存在していないからである。 「で、渡したいものって何なんだ?」 その呼び出された理由をシルフィードから聞いていたシンは回りくどいことはせず直球でタバサにたずねる。 タバサはそんなシンの態度に気分を害する様子も無く、タバサは一本の鞘に納まっているナイフをシンへと差し出す。 そんなタバサの態度にシンは「之が渡したいものなのか」と言う判断をするとそのナイフを受け取り、鞘から抜き出す。 そうするとどうした事だろうか、急にシンの体は金縛りにあったかのように動かなくなってしまったのだ。 「な……!? な、なんなんだ…よ、これ……は…!!」 シンはその『金縛り』を必死に解こうと体を動かそうとするも、体は言う事を聞いてくれない、声を出すのだけでも精一杯だ。 そんなシンの様子を見てタバサは杖をその手に持つと呪文の詠唱を開始し始めると、その体から稲妻が迸り始める。 タバサのその行動にシンは『殺される』覚悟を決めたかのように目を瞑り、その稲妻が自分の肉体を焼き尽くす瞬間を待った。 「ウギャァアアアアアアアア!!!!」 稲妻が襲い掛かり、凄まじい悲鳴がシンの口…からではなく、その手に持っていたナイフから飛び出る。 其れと同時に無傷のシンの手からナイフが転げ落ち、まるで糸が切れたかのようにシンもその場に座り込む。 そしてタバサは杖をもう一度確りと構えると呪文を詠唱し始め、再び稲妻がその転げ落ちているナイフへと襲い掛かる。 「ち、ちょっ!?ま、まってくれ、ライトニングクラウドは…わぎゃぁああああああああ!!」 其れと同時にナイフから再び激しい絶叫が飛び出し、シンはそんな光景を呆然と見ながらも、命が助かった事に安堵を覚えていた。 「で、一体何なんだ?その変なナイフは…」 さらにその後二回ライトニングクラウドを喰らい、まるで打ち揚げられた魚のようにピクピク震えているナイフを見ながらシンはそう問いかける。 「意思を持った魔剣、インテリジェンスナイフの地下水」 シンの問いに簡潔に答えるタバサ、そしてその答えから導き出された一つの仮定を、シンは再びタバサに尋ねる。 「…つまり、俺の体がさっき動かなくなったのはこのナイフのせいなんだな?」 その問いに頷いて答えるタバサ、そして其れを見たシンはおもむろに腰に備えていたナイフを抜刀すると地下水の刀身にカツカツとぶつける。 「なぁ、俺は一応元軍人で、流石にナイフに対するやり方なんか知らないけど、多少の拷問の仕方位は知ってるんだぜ?」 「ち、ちょっと待った!! 少し、少し刺さってる刺さってる!! わ、わかった、キチンと丁寧に答えるからもうやめてくれよ旦那!!」 流石に自分の体を勝手に束縛された事に腹立っているのだろう、シンは無表情のままのその言葉に地下水はおびえながらそう答える。 そしてタバサはそんな光景を軽く一瞥すると近くにあった本を手に取り読書に没頭していくのであった。 「じゃあ、何で俺の体を操ったりしたんだ?」 「旦那を試す為だよ、そこのお穣ちゃんに頼まれた事とはいえ、俺も裏ではちょっとは名の知れた傭兵メイジだったんだ。 スクウェアクラスのメイジだって操ってた事もあるこの俺がメイジでもない奴に使われるってのはちょっと癪だったんでね」 その地下水の言葉を聞きながら、シンはナイフを収め、地下水をその手に持ちながら近くの椅子に腰をかける。 「で、その試した結果っていうのはどうなんだ?」 「ギリギリ及第点かね、旦那の潜在魔力は平民の平均よりちょっと上程度、それだけなら失格もいい所だがちょっと気に入った点があったんでね。」 「気に入ったところ?」 「まずは俺の操作魔法を喰らって抵抗してた旦那の精神力の高さだ、初見であんだけ抵抗できる人間はかなり少ないからな。 後もう一つは旦那筋肉のつき方さ、そこらの馬鹿な傭兵みたいに無駄な筋肉はほとんどついてない、まるで野生の獣みたいな筋肉だったからな。 俺は『地下水』って名前が示すように静かに潜入してから相手を屠る方が得意なんだ、そういう場合旦那みたいな筋肉と精神的にタフな人間が一番向いている」 自分が『暗殺家業』に向いているといわれて少し眉をしかめたシンだったが、地下水はそのまま言葉をつむぎ続ける。 「ま、条件付でなら旦那の相棒になってもいいぜ、自分で言うのもなんだが、持ってりゃ魔法だって使える超お買い得物件だと思うぜ?この地下水様はな」 「…条件って何だ?」 『魔法を使える』という、確かに魅力的な誘いを目の前にしながらも、シンは慎重に条件を尋ねる。 そんなシンの態度に逆に好感を覚えながらも、あくまで其れを気取られないように押し隠しながら地下水は条件を語り始める。 「な~に、簡単な事さ、旦那の体を徹底的に『暗殺』用に鍛え上げて貰うだけさ、一日二時間位の訓練を毎日続けることでな。 魔力が少ない分は肉体を鍛え上げてカバーして貰わないと俺も困るんでね、どうだい、この条件を飲むかい?」 「………体を鍛え上げるだけだな?」 「そうさ、別に旦那に暗殺家業をやれって言う訳じゃない、鍛え方はこの地下水様が指南してやる、悪い条件じゃないだろ?」 普通の平民ならば戸惑う事無く食いつくほどの好条件を出されながらも、それでも確実に『譲れない一線』を確かめていくシン。 そしてそんなシンの態度を見てさらに好感を深めながらも、それ以上の譲歩をしようとはしない地下水。 しばらく睨むように地下水のその刀身を見つめていたシンだったが、やがて決心がついたのか口を開く。 「わかった、その条件を飲む、これからよろしく頼むな、地下水」 「あいよ、旦那が良く判んないだろうメイジとの戦い方も確り指南してやるさ、この取引を損したなんて思わせないほどに有能なところを見せてやるよ」 地下水のその言葉に苦笑したシンだったが、地下水を鞘に収めると自分のナイフの真上辺りに備えて、礼を言おうとタバサに近づこうとしたその時。 「タバサ!!今から出かけるわよ、急いで支度をして………あら、お邪魔だったかしら?」 この部屋の主であるタバサの無二の親友、キュルケがタバサの部屋に突然入り込んできたかと思ったら、シンとタバサの姿を見てそう呟いた。 「…は? って、あんたは何を誤解しているんだ~~~!!」 一瞬何を言っているんだ? と混乱しかけたシンだったが、『男と女が二人部屋の中』だったと言う認識にいたると顔を真っ赤にしながら否定をし始めた。 「って、そんなこと言っている場合じゃなかったわ!! お願いタバサ、力を貸して、貴方の使い魔じゃなきゃ追いつけないのよ!!」 そんなシンの否定をあっさりとスルーしながらキュルケはタバサに抱きつくとまるで泣きつくかのように懇願し始める。 そしてタバサはほんの少しだけ溜息をつくと本を閉じ、キュルケにその「理由」を尋ねるのであった。 キュルケの理由は一言で言えば簡単、「最近気になっているサイトをつれてルイズが街に行った、追いかけたいから力を貸して!!」と言うものだった。 何でもキュルケ曰く「あのどこか抜けて居るところがまた良いのよね~」という事らしいが、とりあえずシンにもタバサにもそんなことは関係ない。 しかし『親友』の頼みは断れないのかタバサはシルフィードを呼び出すと、シンを残して街へと向かおうとしたのだが。 「きゅいきゅい~(お兄様だけ一人ぼっちなのは可愛そうなのね)」 という、タバサを「御姉さま」と慕い、最近シンを「お兄様」として慕いだしたシルフィードがシンの上半身をパクっと甘噛み。 そんな光景にパニックを起こしかけているキュルケをスルーしているタバサの指示に従い其のまま街へと飛んでいったのであった。 トリステイン王都 なんとか無事―甘噛みされっぱなしのシン以外は―王都にたどり着いたタバサ御一行だったのだが、肝心のルイズとサイトは見失ってしまっていた。 その理由は一つ、長い間シルフィードの口内に入っていたシンが見事に気絶してしまっていたからだった。 その事からタバサはシルフィードに軽いオシオキを、そしてキュルケはパニックになりながらもシンの手当てをする事になった。 幸いシンは早期に気絶から復帰したが、キュルケがパニックから復活したときには完全に見失っていたのだ。 その事からどうした物かと頭を悩ませたキュルケだったが、シンが「武器屋ってあるのか?」と言う質問をしたことから。 とりあえず武器屋から順番に店を回って探していこうと言う結論になり、早速武器屋に向かったのだが、そこで偶然が重なる。 そう、ちょうど『サイト』が持つ武器を購入しに来たルイズ御一行と出会うことになったのだ。 「で、急にどういう風の吹き回しなのルイズ?」 「ギーシュに勝ったそこの使い魔程は求めないけど、多少は戦ってもらわなきゃ困るから武器を買いに来た、それだけよ」 サイトに思いっきり抱きついた後、キュルケは「何故武器屋に?」と尋ね、ルイズも其れに簡潔に答える。 そのルイズの答えに、『シン』よりも『サイト』が劣ると言う意見にサイトが一瞬反応したが、其れに気づいた人間は居なかった。 ルイズとキュルケは其のまま雑談―というよりもキュルケがからかいルイズが食いかかっている―しているし、タバサは本を読み始めている。 そしてシンはシンで武器を、特に銃器を集中してみて回っていたので気づけなかったのだ。 「……何か欲しい?」 武器を手にとっては戻しているシンにタバサは本を読んだままそう問いかける。 「いや… こいつの予備弾薬が手に入るかなと思ったんだけど… 無理そうだし、こっちの銃は整備の仕方も知らないしな…」 そう呟きながらシンは自分の腰のガンホルダーに備えているハンドガンに手を触れると、タバサは少し考えるそぶりを取り… 「……ナイフ、投擲用を10本位なら買っていい、これで足りるはず」 そうシンに声をかけると、エキュー金貨を20枚ほど手渡すと、再び本に没頭し始める。 弾薬の補充が難しいなら、比較的補充が容易なナイフを投擲武器にすることである程度カバーすればいい、ということである。 特にメイジは『杖』を用いての魔法攻撃がメインである為、詠唱妨害の意味合いで『刃物』が飛んでくるナイフ投げは地味に効果があるのだ。 本来そういう攻撃は盾として召還された筈の使い魔が防御するものだが、案外メイジ達は戦闘に使い魔を連れてこない時のほうが多かったりもする。 流石にシンはそこまではしらないのだが、タバサに「サンキュー」とだけ声をかけると即座に武器屋の親父にこの金額でナイフを購入したいと声をかける。 「投擲用ですか?そうですねぇ… 名工が鍛えた品なんで少々根を張るんで、一本でエキュー金貨一枚って所になりますが…」 「…これが、名工の鍛えた武器?」 「そうですぜ、一見普通のナイフですが固定化の魔法もかかってますんで生半可なナイフよりは頑丈ですよ」 明らかにゴマすりをしながらシンにナイフを売ってこようとするその態度に何か嫌な予感がしたシンは地下水を抜き出す。 「なぁ地下水、このナイフって本当にそれだけ価値があるのか?」 「は~はっはっは!! 旦那、馬鹿言っちゃいけねぇよ、こんな二束三文使ったら犬っころを殺す前にポキッと折れちまう」 ナイフから発せられた声とその内容に店主は顔面を蒼白にしていき、まったく違う方向から物音がして、そちらにサイトが向かっていく。 「…投擲用としても価値は無いって事か?」 「そうだね、旦那の腕力なら刺さるかもしれないけど、まともに芯もなさそうだし一回投げればそれでぽっきりだと思うぜ」 「なるほど、ね」 そういうとシンは笑顔で、しかし目が笑っていない威圧を与える笑顔で店主の方へと向きなおす。 「あのさ、俺は確かに投擲用っていったけど、流石に実戦に使えないようなナイフはいらないんだけど?」 「へ、へへへい!! い、今別のナイフを持ってきますんで少しお待ちください!!」 流石に修羅場を幾度も潜り抜けているシンの威圧は辛いのか、店主は脂汗をかきながら店の奥に向かい、新しいナイフを15本ほど持ってくる。 「こ、これは質はいいんですが平民の鍛冶師が作ったんでまともな買い手が出てない品でして、これなら15本でエキュー金貨三枚で十分です!!」 「…地下水?」 「ん~… 今度のは上等だね、投擲用どころか普通に使えるぜ、この鍛冶師の武器なら贔屓にしてもいいくらいだ」 新しく持ってきたナイフを見て、シンは念のためにと相談役の地下水に訊ね、地下水も太鼓判を押したことで店主の顔色が戻る。 そしてシンはナイフと其れを保持する為のホルダーを購入すると残ったお金をタバサに返し、早速ナイフホルダーを装着していく。 そんなシンを横目に、サイトは発見したインテリジェンスソード―デルフリンガーと名乗った―を買いたいとルイズに要求していた。 ルイズは見た目が錆びているその剣を購入することに難色を示したが、サイトに耳打ちされると納得した様子でその剣を購入した。 店主はその口が悪く、何かと客に喧嘩を売っていたデルフリンガーに手を焼いていたのかエキュー金貨50枚で其れを販売した。 その剣をサイトに売っている間、店主はシンの方をちらちら見ていたのでまだ怯えていたから安くしたと言う部分もあった。 ちなみにサイトがルイズに耳打ちした言葉とは… 「シンが喋るナイフを持っているなら、こっちは其れより上の喋る剣を持った方がいい」と言う言葉だった。 この言葉の奥に潜んでいる意味―サイトが明らかにシンに対し敵意を持っている―という事にルイズは気付けぬままデルフリンガーを購入した。 貴族とはいえ世間知らずでしかないルイズはサイトの言葉を「主人の立場を気遣って」のものと判断してしまったと言うことだ。 その後、シンはタバサに連れられ衣服屋で着替えを幾つか購入し、ルイズもタバサへの対抗心からかサイトに服を幾つか購入する。 どうやらゼロのルイズと呼ばれていた自分と学年最優秀生徒と謳われているタバサが同じように『平民』を使い魔にしたと言うことでプライドを保っていたのだが。 『ギーシュとの決闘』でシンがギーシュに勝利して見せたことを知り、『格の違い』を見せ付けられたと思い込んだらしく、タバサに対抗心を激しく燃やしていたようだ。 そのおかげでルイズのサイトへの待遇は『タバサのシンへの待遇』に負けてたまるかとどんどん改善されていったことは良かったのだが。 肝心のルイズが何かにつけてサイトに「あの使い魔くらい強かったら」とか「主人の顔に泥を塗るな」と、愚痴をぶつけていたのだ。 そして、それはタバサと張り合うかのように服等を購入している間も収まらず、キュルケがその状況を見て呆れるほどであった。 何かにつけて『シン』と比較されるサイトの瞳には暗い炎が宿り、段々とその勢いは増し続けていた…… そしてその日の晩、ルイズ達の人間関係を大きく揺り動かす原因となる事件がおきた。 メイジ専門の盗賊であり、自身も土のメイジである『土くれのフーケ』が魔法学院の宝物庫を強襲、『破壊の杖』と呼ばれる宝物を盗まれてしまったのだ。 そのフーケに対抗するべく、ちょうど現場へと駆けつけていたルイズ・サイト・キュルケ・タバサの四人とシルフィード・サラマンダーの二匹が奮戦するも。 フーケが操る30メイルにも及ぶゴーレムに打ち勝つことは出来ず、フーケの逃亡を許してしまう結果となったのであった。 ちなみにシンはその時地下水の指導の下鍛錬を行っており、その事件を知ったのは帰ってきたシルフィードの話を聞いた時であった。 強奪された破壊の杖、サイトの心の奥深くで燃え盛る暗い炎、様々な思惑と感情を混ぜ合わせながら物語は次の局面へと進んでいく。 今にもはちきれそうなほどに絞られた弓が射抜くのは光か、闇か…… 双月はただ、静かに彼らを照らし続けていた…… おまけのNGシーン 「で、渡したいものって何なんだ?」 その呼び出された理由をシルフィードから聞いていたシンは回りくどいことはせず直球でタバサにたずねる。 タバサはそんなシンの態度に気分を害する様子も無く、タバサは一本の鞘に納まっているナイフをシンへと差し出す。 そんなタバサの態度にシンは「之が渡したいものなのか」と言う判断をするとそのナイフを受け取り、鞘から抜き出す。 そうするとどうした事だろうか、急にシンの体は金縛りにあったかのように動かなくなってしまったのだ。 「な……!? な、なんなんだ…よ、これ……は…!!」 シンは必死に体を捩ると、僅かに、体がシンの意思に従い動きはじめる、その動きは段々と強いものになっていき… 「クソッ……!! このナイフ、こいつが原因で…!!」 シンは腕を大きく振り上げ、そのナイフを地面に投げつけるようにして手放す。 その事でシンを金縛りにしていた力が無くなったのか、シンは勢いあまってよろけ、何かにぶつかり倒れる。 「いつつ…… あのナイフは……」 シンはそこまで行った時点で現在の状況に気付いた、ぶつかった物とはタバサであり、そして今自分はタバサを押し倒して右手を胸に当てていると言う状況に。 しかもタバサはシンに押したおされているのに顔色一つ変えずシンの顔をじっと見つめている。 そんな不思議な雰囲気に呑まれ動くことを忘れたシンだったが、そんな状況のままずっとして居れば当然… 「タバサ!!いますぐでかけ……… WAWAWA、わっすっれっもの~」 タバサの親友であるキュルケが部屋に入ってきたが、何か忘れ物したらしく全力疾走で去っていった。 「………ハッ!? ご、誤解だ~~~!!」 たっぷり30秒ほどだった後、自分が激しく誤解されたと知ったシンはキュルケを追いかけたが、もはやとめることは出来なかった… そしてそれから二日後、タバサとシンがなぜか学院公式カップルとして完全に認知されてしまい。 ギーシュが「結婚式には呼んでくれよ」と空気を読まずに発言したことで『ブラックシエスタ』が光臨し、学院を混沌の災禍に叩き込んだと言う…… 一覧へ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2208.html
「宇宙のどこかにいる私の下僕よ! 強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」 ルイズがこれで十数回目の召喚の呪文を唱え終わった瞬間、爆発が巻き起こった。 それ自体はいつもの事だ。珍しくもない。だが、今回はそれだけでは終わらなかった。 爆煙のたちこめる中に浮かび上がる巨大な人影。 「まさか!」 「ゼロのルイズが召喚に成功したのか!」 「ありえない!」 そんな生徒たちの動揺の声を圧して響き渡るのは、 「うわぁっははははははははははははははははひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」 という力強い高笑い。 力強さと高すぎるテンションのせいか、貫禄や高貴さと言った要素は皆無である。 「何だこの下品な高笑いは!」 「い、いったい、何者だ!」 口々に発せられる誰何の声に、その人影は笑い声に劣らぬ大音声で応えた。 「ダーク・シュナイダー様の次に美しく! ダーク・シュナイダー様の次に強く! ダーク・シュナイダー様の次に偉大なる大魔導士! 忠誠の蒼き爪持つ元・鬼道三人衆筆頭! それが私!ダァァァァァァァァァイ・アモォォン!」 朗々たる名乗りの声と共に、アモンと名乗った人影がマント(どうやら、彼はマントを羽織っていたらしい)を翻す。 たちまち彼を中心として旋風が巻き起こり、たちこめる煙を一気に吹き飛ばしたその瞬間。 「て言うかダークシュナイダー様って誰よ?」と思う暇もなく。 「ってこれは日光ぉぉぉっぉ!昼間じゃねえかYO!ぶぉえぁ!」 蛙を潰した様な悲鳴とともに人影は消え去り、煙の晴れたあとに残っていたのは白い灰の山であった。 「え?ちょっと、何今の!わたし召喚に成功したの?それとも失敗したの?」 凄い勢いで現れ、凄い勢いで退場して言った謎の存在。 いや、人語を操り人型のシルエットで日光で灰になる存在と言えば一つしかないので謎の存在ではないのかもしれないが、 登場して早々自滅したあの存在を、夜の貴族と言われる高貴なイメージのあの種族にカテゴライズするのは抵抗がある。 「さすがゼロのルイズ!」 「召喚したのは灰の山かよ!」 「ゼロにふさわしい使い魔じゃないか! そのまま契約しちまえよ!」 クラスメイトの嘲笑が痛い。 だが、この程度でくじけてなるものか。不屈の精神こそ私の唯一の取り得なのだ。 もう一度の挑戦をコルベール先生に願い出ようと決意した時。 『ククククク、やってくれましたね! だが、このダイ・アモン様は不死身! この程度では滅びませんよ!!』 再び無意味にテンションが高い大声が響き渡る。 正直、大人しく滅びてて欲しかった。もう一度、もっとまともなものが出る事に賭けて召喚に挑戦させて欲しい。 「なんだ、今の声は!」 「何処から聞こえてきたんだ!」 「おい、あれを見ろ!」 言われたとおりに灰の山を見ると、ギャアギャアと鳴声を上げながら、 翼長2メイルに達しようかと言う巨大な蝙蝠が這い出してくる。 『今は日光に敗れましたが、次はこうは行きませんよぉぉ! 覚悟していなさい、下等な人間どもぉぉぉ!』 ギャアギャア、キィキィと言う蝙蝠の鳴声とは別に、再び響き渡るダミ声。周囲の生徒たちの混乱にも拍車がかかる。 「いったいどこから聞こえてくるんだ、この声は!」 「ひょっとしてあの蝙蝠か!?」 「いや、あれはただのジャイアントバットだ!」 『ふはははははは! 私がどこにいるかわからないでしょう!』 こいつら、本気で言ってるのか? だんだん頭が痛くなってきた。そう考えつつ、エアカッターの呪文を詠唱する。 成功はしないだろうけどそんな事は今はどうでもいい。 「この…」 『うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!』 周囲に響き渡る下品な笑い声。ギャアギャア、キィキィと鳴声を上げて飛び回る大蝙蝠。 「ド阿呆がぁぁぁぁぁ!!!」 叫びながらエアカッター発動。いつものように巻き起こる爆発。 案の定、エアカッターは不発。だが、それでいい。いや、それがいい。その位置がちょうどいい! 『ぶげぎゃひゃおぶぇっ!』 失敗魔法で発生した爆発が、大蝙蝠を直撃した。そのまま無様な悲鳴を響かせて墜落した蝙蝠に歩み寄ると、 その首根っこを全力で踏みつける。 『こっ、小娘ぇぇぇぇぇ! なぜ私が蝙蝠に化けているとわかったぁぁぁぁ!?』 「あの蝙蝠が声の主だったのか!」 「全然気付かなかったわ!」 頭がくらくらしてきた。コイツといいクラスメイトといい、どいつもこいつも本気で言ってるのだろうか。 「アンタ馬鹿? こんなあからさまに怪しい蝙蝠、見たことないわよ!」 怒りと侮蔑をこめて思いっきり踏みにじり、その辺に落ちてた人頭大の石を拾ってゴスゴスと殴りつける。 どうせこの手の連中は殺しても死なないのだ。徹底的に痛めつける必要がある! 『グギャァァァァァァァァ! やめてぇぇぇぇ! 暴力反対ぃぃぃぃぃぃ!』 「なんて容赦のない攻撃! まさに残虐非道ッ!」 「貧民街のゴロツキがやるブースボクシングよりダーティー!」 「ゲェ―――――っ残虐超人ルイズの誕生かぁーッ!」 ギャラリーが好き勝手なことを言っている。後で覚えていなさい。 心の中の復讐手帳に各人の名を記入しながら殴っていると、蝙蝠はぐったりとして時々痙攣するだけになってしまった。 『ひ…ヒドイ…』 ふう、今日のところはこれくらいで勘弁してあげるわ。血まみれになった石を投げ捨てて、 ようやく一息ついたところで、コルベールが近付いてきた。心なしか引き攣った笑みを浮かべているがそこは無視。 この状況で先生が私に言う事ってなんだろうなー。うわー、なんだか物凄く嫌な予感。 「良くやりましたね、ミス・ヴァリエール! さあ、そのまま契約してしまいなさい!」 マジですか、コルベール先生。これと契約するのって凄くイヤなんですけど。 …でも、契約しないと留年なんだろうなあ…究極の選択ってこういうのを言うんじゃないだろうか。 しばらく考えこんでしまったが、結局「強力な亜人には違いないし、留年するよりはマシか」と言う結論に落ち着いた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 うう…これは儀式だし相手も人間じゃないから未確定…ッ! 成立していない…っ 不成立なんだっ…! ファーストもクソもないっ…キスとしてはノーカウントッ…! ノーカウントなんだ…ッ! ノーカウントっ…! ノーカウントっ…ノーカウントっ…! 必死でそう自分に言い聞かせながら、唇を近づける。 『ギャー! やめてぇー! 二重契約なんてしたら青爪邪核呪詛(アキューズド)の呪いがぁぁぁぁ!』 ああ、この蝙蝠うるさい! もう一発ぶん殴って黙らせた。 あと、アキューズドって何?とか思ったが、このルイズ容赦せんっ! 覚悟は出来てるか? 私は出来てるっ! ズキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!! とかいう音がしたかどうかは知らないが(心情的にはこんな擬音がふさわしいくらいショッキングだった)、 唇が蝙蝠の口に触れた。うー、後で口を漱がなきゃ… 『ガマガエルになるのはイヤァァァァァァァァァァ!! って言うか痛ェェェってか熱ゥゥゥゥッ!!』 そう叫びながら蝙蝠がのた打ち回る。左の翼に生えた指…というか、指先の爪に使い魔のルーンが浮かび上がり、 光を放っている。…なんで左翼だけ爪が青いのかしら。と思ったそばから爪の色がだんだん毒々しい紫に変わっていく。 『…あれ?』 いったん大人しくなった蝙蝠がおもむろに起き上がり、左手の爪をしげしげと眺めている。 コルベール先生も一緒になって紫の爪の上に浮き出た使い魔のルーンを観察している。 「ふむふむ、これは珍しいルーンだ…スケッチしておこう」 楽しそうですね先生。とか思ったら、 『あぁぁぁぁッ! 青爪邪核呪詛の術式に何か変な魔術文字が上書きされてるゥゥゥゥゥゥゥゥ!?』 蝙蝠が叫びだしやがった。いちいちうるさい使い魔だ。 『仕方がありません…そこなちっこい小娘、この私、偉大なる真祖ダイ・アモン伯爵が 使い魔となって差し上げますよ! せいぜい感謝しなさい!』 なんか引っかかる言い方だが、まあ良しとしよう。使い魔にふさわしい態度は後々みっちり教育して行けばいい。 「はい、それじゃあ今日の授業はここまで。皆さん、それでは校舎に戻りましょう」 コルベール先生の言葉に従い、使い魔召喚を終えた生徒たちが校舎に向けて飛び立つ。 いつも通り飛翔魔法で飛ぶものが多いが、中には召喚した使い魔に乗って飛ぶものもいる。 私はといえば、当然フライの魔法は使えないし、このジャイアントバットは図体ばかり大きいくせに 人を乗せて飛ぶほどの力はないらしい。…役立たずだ。そう言ったら 『うっせー小娘! フルパゥワァーの美しい私なら小娘一人抱えて飛ぶなんて造作もありませんよ! 昼間に呼び出すテメーがワリぃーんです!』 とか言われた。ううむ、ある意味正しいので反論が難しい。でも、好きで呼び出したわけじゃないし。 吸血鬼が出てくるってわかってたら昼間に呼んだりしない。 …いや、反抗的な吸血鬼を夜に呼び出したりしたら、そもそも契約できたかどうかが疑問だ。 やっぱり昼間に召喚したのは正解だったかもしれない。 『で、マスターは飛んで帰らねーんですかぁー』 「うるさいわね! 私は歩くのが好きなの!」 そういって帰ろうとしたら、この使い魔、 『灰の山を持ち帰って地面に埋めてください。そうしねーと何時までたっても復活できねーんですよ』 とか言い出したので、仕方なくマントに包んで持ち帰った。うう、このマント後で洗濯しないと… 宿舎の裏に灰を埋め、ようやく部屋に戻ってきたらもう日が暮れていた。 凄まじく疲れたが、それも仕方がない。今日はやたらと肉体労働が多かった気がするのだ。 メイジとしてどうかと思うが。 『ここがご主人様の部屋ですか。小娘の分際で中々いい部屋に住んでやがりますねー』 大蝙蝠はそう言って部屋に入るなり、天井の梁にぶら下がった。 しまった、蝙蝠だけに寝床は天井か! 床に毛布で寝させて立場をわきまえさせる作戦はいきなり失敗だ! 『で、とりあえず使い魔といっても具体的に何をすれば良いんですか?』 良い質問だ。とりあえず、絡め手の作戦が失敗した以上は正攻法、普通の質疑応答で使い魔の立場を理解させなくては。 「まず、使い魔はご主人様の目となり耳となるのよ」 『感覚の共有と言うわけですねェ。まあ基本的な要素ですが…で、見えてますか?』 意識を集中してみるが、何も見えないし聞こえない。 「…ダメね。なんでかしら。 まあいいわ。次は、苔や硫黄とか秘薬の材料となるものを集めてくる事!」 『そんな雑用、使用人にやらせればいいでしょう。何で伯爵であるこの私がそんなことをしなくちゃいけねーんですか!』 「む、ご主人様に歯向かう気なの!?」 そう言うと、蝙蝠は慌てて左翼の爪を見た。心なしか、だんだんと爪の色が紫から赤紫っぽく… 『いえ、逆らうなんて滅相もありませんよぉぉぉぉ!』 あ、また紫に戻った。…どうやら逆らうと赤く、従うと青くなるみたい。なんなんだろう。 ついでに私は公爵家の令嬢であり、伯爵よりも偉いのだと言っておいた。別に公爵家の当主と言うわけでもないし そもそも公爵位は姉が継ぐだろうから、私自身が伯爵より偉いわけでもないのだが…こういうヤツには ハッタリの一つくらいはかましておいた方が良いだろう。 「で3つ目。これが一番重要なんだけど、使い魔は主人の身を守るの」 『力が戻ればその程度は容易い事ですよ』 まあ、そうだろう。吸血鬼といえば強大な魔力を持つ不死身の怪物。この点だけは期待しても大丈夫なはずだ。 『まー夜限定ですけどねー』 …最大の問題を忘れてた。強力な代わりに時間帯による制限が著しく厳しい種族だ。 使い勝手が悪いのと契約してしまったなあ。 とりあえず、使い魔の仕事について説明したんで今度はこっちが質問する番だ。 「とりあえず、名前はダイ・アモンでいいのよね?」 『Yes!』 まあ、いきなり名乗ってたし。 「種族は吸血鬼?」 『Exactly(その通りでございます)』 これも判り切ってること。ここまでは軽いジャブのようなものだ。ここからが本番。 「で、その紫の爪は何よ?」 『ギクゥ!』 ビクリと体を硬直させ、脂汗を流し始めた。…あからさまな反応でわかりやすくて良い。 『ななななな、何のことか判りませんねぇぇぇぇ!』 「ふーん、とぼけるんだ? 私に逆らうって事よね。いいのかしら? また爪が赤くなるんじゃないの?」 無論、これも推測によるハッタリに過ぎないが、勝率は高いはずだ。 『…実は』 勝った。 ダイ・アモンと名乗るこの吸血鬼が言う事には、この爪は青爪邪核呪詛(アキューズド)と言い、 忠誠を強制するための太古の呪詛魔法らしい。忠誠心を示せば爪は青く、逆らえば少しずつ赤くなり、 その爪が真紅に染まった時、この呪いをかけられたものは肉体を分解されヒキガエルにされてしまうそうだ。 …悪趣味な呪いだなあ。 で、以前にダークシュナイダーとかいう邪悪な魔法使いに敗れた時、この呪いで手下にされてしまったらしいのだが、 私がコントラクト・サーヴァントをかけたときに魔法同士が干渉し合い、結果として青爪邪核呪詛の忠誠の対象を 上書きしてしまったらしい。 「と、言う事はアンタは私に逆らえないわけね?」 『そのとーりですが、いい気になられては困りますね小娘! 確かに爪が赤くなるほどに逆らいはしませんが 私が真に忠誠を誓うのは強く美しい者のみ! 私の主人に相応しい力を示さない限り、爪が青くなることはありません!』 生意気なヤツだ。いいだろう、その挑戦受けて立つ。必ずその爪を青くして見せるわ! …参考までに、そのダークシュナイダーとやらがどのくらいのメイジなのか聞いてみた。 400年生きて、炎系を中心としてあらゆる属性の魔術(ただし、何故か水系だけは使えないらしい)から呪詛、 果ては失われた古代の秘術をも使いこなす大魔法使い。鋼のゴーレムの軍団と数万の闇の軍勢を率いて大陸を 征服しようとした破壊と殺戮の権化。美形だが凄い悪人面の性欲大魔神。エルフが束になってもかなわないって。 …マジですか? 『ん? …こっ…これはぁぁぁぁぁ!』 突然何事だ。そう思ったらいきなり翼を広げて飛びだし、開けっ放しになっていた窓に突っ込んだ。 どうやら夜空を見上げているらしい。 『ありえねーぐらい月の魔力が満ち溢れてると思ったら、月が二つぅぅぅぅぅぅ!?』 当たり前ではないか。何を驚いているんだろう。 『ここは一体何処なんですか! ダーク・シュナイダー様の事を知らない人がいるなんて何かおかしいと思ったら!』 「ここはトリステイン王国よ。ハルケギニア大陸の」 アモンが言うには、出身地には月が一つしかなかったと言う。 …コイツが法螺を吹いている可能性もあるので爪にかけて聞いてみたが、やはりコイツの出身地は 月が一つで正しいようだ。違う大陸の出身なのかもしれないが、それにしても月が一つしかない大陸なんてあるんだろうか。 『…むう、天界や魔界と言うわけでもなさそうですし、どうやら星単位か時空世界単位で転移してしまったようですね… これだけの大転移魔術、そうそうに実行できるはずがないのですが…平行世界理論はアビゲイル様にでも聞かないと…』 なんだか良くわからない事を言い出した。何を言っているのかと聞いたら、説明しても多分わからないと言われた。 むかついたのでいいから説明しろといったら説明してくれたがやっぱり良くわからなかった。 なんでもカガクとか言う失われた秘術を理解する必要があるらしいが、それについてはアモンも大して詳しくはないらしい。 前の主、ダークシュナイダーとやらはカガクと言う秘術にも通じており、その配下だった暗黒神官アビゲイルとやらは その道の専門家でもあるらしいのだが今ここに居ないので話を聞くことも出来ないとか。 『まあ、その辺は置いておきましょう。目下もう一つの問題ですが… 吸血鬼の力が月齢によって左右されるのはご存知ですか?』 「それは聞いたことがあるような気がするわ」 『現在、夜空には月が二つ出ています。しかも、その両方が満月! 夜の眷属がフルパゥワァーになれるエネルギー源がワンダフリャな事に二倍ニバーイぃ! 日光で失った魔力を大幅に回復させる事が可能なのですよ!』 「それで?」 『これで処女の生き血が1リットルほどあればすっかり元通りになれるんで血をよこせやぁぁ!』 「却下!」 んなもの用意できるわけがないだろうが。私の血は…まあ、条件にはあってるがそんなに血抜きしたら大変な事になる。 かといってコイツに他の女生徒を襲わせるなど持っての他だ。 そう考えてようやく気付いた。…吸血鬼は血を吸わなければ生きていけないのだ。コイツの食事はどうすればいいんだろう。 聞いてみた結果、やはり人間の生き血が必要らしい。そんなものどうやって確保すればいいんだろう、と思ったが 極上の処女の生き血なら数滴で1日しのげるらしい。極上と言うのはどういうものか良く判らないが… 私の血でもおそらく大丈夫だとの事。つまり私は極上の処女と言うことか。これって喜んでいいのだろうか。 『まーチンチクリンな小娘は私の好みじゃないんですけどねー』とか嫌そうに付け加えていたので銀の置物でぶん殴っておいた。 吸血鬼に銀が有効と言うのは事実のようだ。勉強になった。 『…とりあえず、数滴の血で良いんでよこしやがってください』 その程度なら、という事で妥協する事にした。流石に食料なしと言うわけにも行かない。 指先をナイフで突いて血を垂らし、アモンに与えた。これで一晩待てばとりあえず人型に戻れる程度には回復するらしい。 人型に戻ったら、掃除や洗濯をやらせようと心に決め、今日はもう寝る事にした。 寝る前に「明日の朝、ちゃんと起こしてよね」と言ったら嫌がったので爪で脅したら、 『朝日が差し込まないように部屋の窓を閉め切っておく』事と、『専用の棺を用意する事』と言う条件で妥協した。 そうしなければ、朝が来ると同時にまた灰になってしまうので当然と言えば当然の条件か。棺の方も考えておこう。 ルイズがベッドに入った後、ダイ・アモンは夜明けまでの時間を土の中で過ごした。 灰を埋めた場所はじめじめして日当たりが悪い場所である。これは吸血鬼が不浄な魔力を蓄える為に必要な条件だ。 多くの血を吸った土地や放置された墓場のような場所ならなお良いのだが、当然この学院内にそんな場所があるはずもない。 だが、土地がベストな条件ではなく、糧となる血も数滴程度しか啜っていないにもかかわらず、ダイ・アモンの魔力は 予想以上に回復している。最初は月が二つあるために魔力が増幅されているためと考えたが、それを計算に入れても 回復量が多すぎる。 『あの小娘の血…どうやら予想以上に夜の眷属に馴染むようですねぇぇぇぇ! これはラッキーかもしれませんよぉぉぉぉぉ!』 「やかましいわ!今何時だと思ってるのよ!」 銀の置物が窓から降ってきた。 その夜響き渡った凄まじい悲鳴は翌日の学院内の話題となり、そこから派生した噂話が学院に新たなる怪談を 作りだす事になるのだがそれはまた別の話。 第一話――END
https://w.atwiki.jp/beybladecostrule/pages/120.html
ジャイロドライバー サバイブよりさらにしっかり尖った形状に加えて、ベイの回転方向にのみフリー回転する機構がついたドライバー。 アトミックと違い垂直平面には回転しないため、オーバーのリスクが低い。 しかしながら軸は比較的細めで終盤の粘りにはアトミックや他の面積の広いドライバーに軍配が上がる。序盤の走りにくさやオーバーしにくさ、通常状態でのスタミナ効率の良さをうまく行かせるカスタムを見つけたい。 軌道 基本的に中心へすぐに向かうが、強いシュートを打てば外周を回れる。アタックタイプから逃げたい時に狙って出せれば戦略が広がる。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/988.html
ゼロのルイズが魔法を失敗し、爆発を起こす。当たり前の光景であり、そこには毛の先ほどの意外性もない。 はずだった。 『春の使い魔召喚の儀式』でサモン・サーヴァントを唱え、使い魔を呼び出す。 メイジであれば誰もが通る道だが、例外がないわけではない。例えばここにいるルイズ。 魔法を行使しようとしてもその成功率ゼロパーセント、ゆえにゼロのルイズ。 フライ、ロック、レビテーション、コモンやルーンの違いに関わらず、全ての呪文が爆発に通じる。 心無いクラスメイト達の期待にたがわず、大事な儀式でも爆発を起こす。 向かう先は留年、退学、兎にも角にも不名誉な道だが、嘲笑う人間にとってはどうでもいいことだ。 ただここに笑うネタがある。それで十分、十二分。 「おいおい、使い魔くらいまともに召喚してくれよ!」 「さすがはゼロのルイズだな」 「あなたには使い魔無しがお似合いよ!」 ここでルイズからの苦しい反論があり、それをネタにもう一笑い、という流れに沿うはずだった。 だが、当のルイズが動かない。爆発により巻き起こった土ぼこりを呆然と見つめていた。 自然、からかうことに腐心していたクラスメイトもそちらを見る。 笑いもからかいも無く黙って眺めていた級友達、慰める準備をしていたコルベールもそちらを見た。 土ぼこりの向こうに茫としたシルエットが見える。 はっきりとはしないが、二本の足で立っているようだ。 「亜人……?」 「まさか人間……?」 一人ならぬ人間が息を呑んだ。一陣の旋風が土ぼこりを払う。 皆のマントがバタバタとあおられ、女生徒のスカートがはためくも、目を逸らす者は一人としていない。 ルイズの爆発によって起こされた土ぼこりが吹き飛ばされた先には――何もいなかった。 一転、爆笑。 「やっぱりゼロはゼロだな!」 「まったく驚かせないでよね。紛らわしい」 ルイズの双眸は驚愕に見開かれていた。普段は澄んだ桃色を湛えているその瞳は、掴みかけた成功を奪い取られた絶望の黒に塗り固められていた。 「違うのよ! たしかに召喚した! 手ごたえがあったのよ!」 転々、爆笑。 「だっていたじゃない! みんな見たでしょ! そこに人影が!」 「光の加減でおかしなものが見えたんだろ」 「見間違いにすがるのはやめとけよ」 「いや、たしかに召喚は成功していたようだ」 土ぼこりの跡を調べていたコルベールの一言に、場の空気が再度固まった。 「見たまえ、かすかではあるが足跡が残っている。これはミス・ヴァリエールが起こした爆発の後にできたものだ」 「それじゃミスタ・コルベール……わたしはサモンに成功していたんですか!?」 「そういうことになる」 絶望は喜びへと転化しようとしたが、ルイズの理性が急転直下を押しとどめた。絶望は喜びではなく疑念に変わった。 召喚に成功したというのなら、なぜ使い魔がいない? まわりの生徒達もざわめいている。 使い魔に逃げられたとなれば格好の笑いの種だが、問題はその逃げ方だ。 衆人環視の中、忽然と消え失せた。そんなことが可能で、あのシルエットの持ち主となると―― 「音も無く消えるっておい……」 「エルフ……?」 「いや吸血鬼ってことも……」 「本当かよ……あのルイズが……」 思い当たる存在を次々あげていくだけで、ささやかならぬ恐怖が蓄積されていく。 不安げに囁きあう生徒達の心配が杞憂に終わらないであろうことを次なる発言者が念押しした。 「逃げていない」 「……そうか。君は風のトライアングルだったね、ミス・タバサ」 眼鏡をかけた少女がドラゴンの頭を撫でていた。 次々変わる状況におびえているのか、使い魔のドラゴンが少女について離れない。 「風が動いていない」 タバサの耳元でドラゴンが口を動かしているその様は、タバサという通訳を介してドラゴンの考えを語っているかのような滑稽さがあったが、それを笑う余裕がある者はこの場にいない。 「召喚された者が未だここに留まっているというのかね?」 「そう」 動揺は揺れ返し、恐慌になろうとしていた。 「なんだよ! どういうことだよ!」 「ど、どこに隠れてるんだ!?」 「落ち着きたまえ! 皆、見ない顔はいないか周囲を確認しなさい」 キュルケは杖を構えルイズの傍らへと移動した。さりげなくマリコルヌがついていく。強い者の周りが安全――風上との判断か。 ギーシュは右手にモンモランシーを、左手にケティを抱え、落ち着かない様子で周囲を見回す。 コルベールは油断無く生徒の顔を確認した。次いで召喚されたばかりの使い魔達を見る。 ――おかしい。 見知った顔しかない。教師の務めとして、召喚されたばかりの使い魔もきちんと把握している。 この場にいないはずの存在、いてはならない存在がない。 「ちょっとルイズ! あなたが召喚した使い魔でしょ、責任とりなさい!」 小声だが強い調子で話しかけた。キュルケの声が聞こえないはずはないのだが、ルイズは動かない。 「ルイズ?」 キュルケの語調が弱くなり、語尾に疑問符がついた。 いつでも魔法を使えるよう、杖を構えたままでルイズの顔を覗き見る。 そこにあったものは……。 「ル、ルイズ……!?」 高いプライドを持ち負けず嫌い、そのせいでコンプレックスに潰されかかっている。 何かとつっかかってくるが、その方向性はいまいちずれている。 空気は読めないが、他人のことを思いやることもできる。ただし余裕がある場合に限り。 キュルケにとってのルイズは、危なっかしく目が離せない妹――ルイズに聞こうとキュルケ本人に聞こうと言下に否定されるだろうが――のような存在だった。 だが、そこにはキュルケが見たことのないルイズがいた。 異相? 異様? 違う。これは……異形。 呆けているのではない。確固たる意思を持って半ば開かれ、半ば閉じられた口。 怒りとも笑いともとれない角度で押さえつけられている柳眉。 そしてその眼。平生の桃色でも絶望の黒でもない。そこには何も無い。『何も無い』があった。ただあった。 眼球が零れ落ちる寸前まで瞼が押し広げられ、瞬き一つ無く……。 キュルケは意識することなく一歩退いた。一歩退き、その事に気づいて戦慄した。 使い魔がこの場から離れていないとすれば、召喚主であるルイズが誰よりも危険に晒されているということになる。 ま、たまには恩を売ってやってもいいかもね……その程度の軽い気持ちでルイズの傍らに寄った。 庇護すべき対象だったはずのルイズに恐怖した。その事実がキュルケを戦慄させる。 この子は……この子は何だ? 何を見ている? 分からない。分からないことがたまらなく恐ろしい。 「おびえる必要はないよ」 キュルケの肩に手が置かれた。 「ルイズちゃんは集中しているだけなんだ」 「集中……?」 キュルケが振り返った先には女性用の下着をかぶった熊がいた。 「ここで使い魔をゲットしなくちゃ破滅が待ってる……追い詰められたルイズちゃんのインスピレーションがいつもの何倍も働いているんだ」 二本足で立つ熊が訥々と、だが自信ありげに語る。 「あの悪い目つきはその印だよ。あの鋭い目から逃げられる犯人は一人もいないんだ」 キュルケがふっと息をはいた。タバサとシルフィードは黙して動かない。 ギーシュ達三人は震えている。マリコルヌは汗を拭った。コルベールは息を殺している。 「さあ始まるぞ。ルイズちゃんの名推理が……!」 <読者への挑戦状> さあ、材料は全て揃った。 あなたは事の真相を見抜くことができるかな?
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1393.html
前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編 「貴様……」 「ルイズ、君は逃げたまえ」 ルイズはそういわれると、震える足でよろよろと逃げ出していく。 ワルドがギーシュに向けて、杖を振る。 杖の先から放たれた雷光は、先ほどのようにワルキューレに阻まれる。 「土のドッド如きが私に勝てると思っているのかね?」 「やってみれば解るさ!」 ギーシュが跳ぶようにして距離を詰め、粗いながらも速く、剣を振る。 ワルドはそれを杖で受け止める。 「メイジが剣を使うか!」 「使っちゃいけない理由もないと思わないかね」 ギーシュは剣を打ち込みながらも、詠唱を完成させる。 剣を防いでいたワルドも同じように、詠唱を完成させ、 ほぼ同時というタイミングで魔法を放つ。 「『錬金』!」 「『エア・カッター』!」 だが、ギーシュの方が速い。 ワルドの足下が粘土のように柔らかくなり、 ワルドは体勢と狙いを崩す。 外れた『エア・カッター』が礼拝堂の椅子の角を切り落とした。 「今だ、ワルキューレ!」 「く……」 ワルドは迅速に粘土から足を抜くが、そこにワルキューレが襲いかかる。 詠唱が間に合わないのを見て取ったワルドは、 腰に下げていた紅い剣を左手で器用に引き抜き、ワルキューレに振りかぶる。 「遅いッ!」 ワルキューレの拳が直撃して、ワルドは倒れ込みそうになる。 だが持ち直すと、左手に持った剣を再びワルキューレに向けて振った。 ギーシュはその剣が何か揺らぎのようなものを纏ったのを見た。 それは膨れあがるとその剣をそのまま大きくしたような形を取り、 ワルキューレを切った。切断面が赤熱している。 ギーシュは危険を感じ、とっさに飛び退く。 先ほどの斬撃と交差するようにワルドが再び剣を振るう。 剣がワルキューレを通り過ぎる。交差した赤熱の線が十字の様に見えたかと思えば、 次の瞬間にその線が膨れあがり、ワルキューレが爆発する。 「な、何だって……」 ワルドがギーシュの方を睨みつける。 ギーシュは細剣では打ち合えないと考え、 ワルキューレを全て出し、 剣を細剣から長剣に変え、薔薇をしまい込む。 ワルキューレを散開させ、複数方向から攻め込ませる。 ワルドは前から来た殴りかかってきた二体の腕を巨大化した剣で切り裂き、 右から来た一体を杖でいなし、左から来た二体を風で吹き飛ばした。 しかし、背後から来たワルキューレの一撃を受ける。 「ぐっ……」 しかし俊敏に身を翻し、そのワルキューレに向け斬撃を繰り出す。 そのワルキューレは先ほどのものと同じように十字に切り裂かれ、吹き飛んだ。 「な、なんだあの剣は……」 ギーシュは恐怖におののいた。爆発するのも不思議ではあるが、 ワルキューレをあっさり切り裂いてしまうそれはブルーやアセルスのそれを彷彿とさせたからだ。 切り裂かれたワルキューレを見回す。 と言っても、消し飛んだので五体しかないが。 (あれ?) そこで疑問に思った。消し飛んだのは先ほどの二体だけなのである。 何故なのか、先ほどの剣を使えば全て消し飛ばすことも出来たはずだ。 なら、使えない? (……なんでだ?) 「呆けている余裕があるのかね?」 ワルドが巨大化した剣を振り下ろす。 ギーシュはそれをとっさに剣で受け止めた。 そう、受け止めた。 (ワルキューレをあっさりと切れるのなら、剣ごと僕は切り裂かれているはずだ) やはり、使えないのだろうと考えた。剣を押し返して弾き、 吹き飛ばされていたワルキューレを再びワルドに向けて、 自身は距離を取る。そして、何故使えないのかを考え始めた。 (なにか条件があるのか?) それが解るまでは、距離にはいるのは危ないと判断し、遠くから機を狙う。 二体を相手しているワルドに生じたその隙をギーシュは見のがさなかった。 「今だ!」 杖でいなされ、倒れ込んでいたワルキューレが跳ねるように起き上がり、 ワルドに蹴りを飛ばす。ワルドは不意の一撃を食らう……が、倒れなかった。 「……魔法衛士隊の連中は化け物か」 そして、またワルキューレが十字に切られ、消し飛ぶ。 そこでようやくギーシュは気付いた。 あの斬撃を出した時と、出してないときの相違点に。 (もしかしてあれは、殴られないと使えないのか?) 最初の時も、二番目の時も、今の時も消し飛ばされたのは 攻撃を成功させたワルキューレだった。 ならば、とギーシュは残った二つと自分自身で三方向から攻撃を試みる。 ただし、自分の攻撃はわざと外して。 一体目を剣で無理矢理倒したワルドは、 ギーシュのフェイントに引っかかって背後のワルキューレの一撃を食らう。 するとギーシュには目もくれず、紅い剣を振りかぶり、 背後のワルキューレを同じように十字に切り裂く。 切られたワルキューレは、やはり爆ぜた。 「やっぱりか、その斬撃は攻撃を受けないと使えないようだね!」 ギーシュは笑いながら勝ち誇った声で言う。 ワルドはそんなギーシュに冷静に返す。 「解ったところでどうしようもあるまい」 「へ?」 「攻撃せずにどうやって勝つというのだ?」 ギーシュが固まる。 ワルドはそんなギーシュに向けてゆっくりと一歩ずつ歩み寄って来る。 ギーシュは今度は汗を流して、必死に頭を回転させる。 (え、えーと、冷静に考えればそうじゃないか! どうしようも――?) そこで、一つの閃きを得て、剣を構え直す。 ワルドはそれを見て、一度立ち止まる。 「死ぬ覚悟が出来たのか?それとも逃げる気か?」 「どちらでもないね」 「そうか」 そう言うと、片手で剣を振り上げる。 ギーシュはそれを集中して見つめていた。ワルドが剣を振り下ろす。 ギーシュはそれに対して剣を斜めに構えて受け止める。 そして、そのままワルドの懐まで入った。 「何――?」 ワルドが右腕の杖を振り上げる。 ギーシュはそれは無視し、剣を回して左手を絡め取り、 そのままその手に在った剣を弾き飛ばす。 紅い剣が宙に舞い、風を切る音を鳴らして礼拝堂の固い床に突き刺さる。 ギーシュは振り上げた形になった剣を右腕にたたき付けようとする。 が、ワルドは『ウィンド・ブレイク』を唱え、ギーシュを吹き飛ばす。 当然、剣を振り下ろすことは出来ず、ギーシュは床にたたき付けられる。 「……どうやら私は君を見誤っていたようだな。 だが、もう油断はせぬ」 ワルドは呪文を唱え、杖を振る。 杖の先から雷光が迸り、ギーシュに向かって飛ぶ。 「があっ……!?」 ギーシュの前進に激痛が走り、あまりの痛みに崩れ落ちる。 ワルドはそれを冷酷な目で見つめて、小さく唱えた。 「『エア・ニードル』」 杖が青白い光に包まれる。 先ほど、ウェールズを貫いたものだろう。 ワルドは、電撃を喰らって動けないギーシュに一歩一歩近づく。 そして、すぐ前で一旦立ち止まり、杖を振り上げる。 「君を殺したら、ルイズを追うとしよう。 この城の包囲から逃げられる筈もない」 そして、杖を振り下ろす――が、それは一本の剣によって途中で遮られる。 ワルドは咄嗟に、彼が入ってきたであろう扉とは反対側の、始祖像まで飛び退く。 杖を防いだ人影は、剣を構え直す。左手に刻まれたルーンが光り輝いている。 「ブルー!」 「相棒、ようやく出番か!」 「貴様……どうやって此処まで!」 ブルーは答えずに、短く呟く。 数本の剣が現れ、ワルドに向かい飛ぶ。 ある意味、もの凄い解りやすい返答かも知れない。 ワルドは呪文を唱えて風を巻き起こし、それを弾き飛ばす。 ギーシュは誰かの手が自分の手を引っ張るのを感じた。 その力を借りて、何とか立ち上がりその手の先を見る。 「ルイズ……」 「間に合ったみたいね」 ボロボロで、まだ感覚がはっきりしない状態でも、ギーシュは何とか笑いを作る。 「逃げなかったのかい?」 「貴族は背中を見せないわ」 ギーシュは今度は笑いを作らず、心の底から笑いを浮かべる。 「逃げるとき、足が震えてたよ……」 「……そ、その時はその時よ!」 ルイズが顔を赤くして騒ぎ立てるが、 ギーシュは笑いを止めて、正面を向く。 ワルドと、彼らが対峙していた。 「……そうか、主人の危機が目に映ったか」 「ルイズを騙したのか?」 彼らは歩みながら、ルーンを刻む。ワルドは動かない。 「目的のためには手段を選んではおれぬのでな」 「それは勝手だ。だが、他人を巻き込むな」 ルイズはその様子を見ていた。 ブルーは……いや、ルージュか……? どちらとも解らないが、怒っているように見える。 どちらも、そういう人には思えないのだが。 それに、ルイズのために怒っているのとも、違う気がする。 むしろ、ワルドの行為そのものを憤っているような……。 と、そこで彼が動いた。目に追えぬほど速い……とまでは行かないが、 それなりに速く、ワルドに突っ込み、剣を振り下ろす。 ワルドは身体を翻してかわし、青白く光ったままの杖を突き出す。 ブルーが剣で受け止めると、ワルドは飛び退いて距離を取る。 そして、一度『エア・ニードル』を消し、再び唱える。 「く……ユビキタス・デル・ウィンデ……」 その呪文を唱え、ワルドが杖を振ると、 ワルドが分身する。突如出現したとも言える。 数を増やして、最終的にワルドは5人に分身した。 それを見て、彼らは剣を止めて、飛び退く。 「風の遍在だ……知っているとは思うが」 「知らん」 その言葉を聞いた途端、短く返してブルーは再び斬り込む。 刻まれたルーンから発せられた光が彼らを覆うと、 今度こそ目にも見えぬほどの速さになった。 ワルド達の内の一人が、呪文を唱える。 「『ウィンド・ブレイク』!」 風が、彼らめがけて放たれる。 彼らは反射的に、デルフリンガーを前に突き出す。 剣で風が防げる道理はないが、それでも防御しようとした。 「ちょ、相棒」 「剣で魔法が防げるはずが――」 その言葉を言い終える前に、魔法の威力が到達する。 しかし、身体に伝わってくるはずの衝撃は来ない。 少々困惑していたがそれでも考えると、 手に持った剣が風を吸い込んでいる事を発見する。 「何だと……!」 「おお、なんだこりゃ……そういや……なんかそんな事も出来たような……」 自分でもよくわかっていないらしいデルフリンガーに、彼らは問い詰める。 「どう言う事だ」 「いや、ちょっと待って。今思い出すからよ……」 「『ウィンド・ブレイク』!」 「……取り敢えず、防いでもらうぞ」 ワルド達が放った突風を、今度は意志を持ってデルフリンガーで防ぐ。 先ほどの雷撃と同じように、突風は吸い込まれ、彼らに届くことはない。 「その剣……一体何だというのだ!」 「……そうだ、思い出した!」 彼らはその声は無視して狼狽しているワルド達に切り込む。 「い、いやちょっと、聞いて欲しいかなー、なんて」 「聞いてやれる余裕はない」 「……まぁいいさ、今はやりたいようにやっちまいな、『ガンダールヴ』!」 そう叫ぶと、デルフリンガーが光り出す。 ワルド達が再び『エア・ニードル』を唱える。 「…杖自体が魔法の中心!打ち消すことは出来ぬ!」 そういって、五人のワルドが杖を突きだしてくる。 それを受け流し、回避し、いなす。 最後に振り下ろされたのを受け止めると、デルフリンガーを包んでいた光が弾ける。 そこには、磨き抜かれたように輝きを返す、錆びの混じらぬ鋼の刃があった。 「何なんです?」 「……細かいことは気にすんな!行くぜ!」 懐に入れたワルドのうちの一つを切り上げる。 それは悲鳴も上げずに消滅した。 ワルドの遍在達が彼らを取り囲んで、杖を突き出してくる。 彼らはそれを軽く跳躍して、回避する――軽くと言っても、 人一人飛び越せるぐらいの高さだったが。 そのままワルド達の内の一人の頭を足場に大きく飛んで、包囲から離脱する。 その動きを見ていたギーシュは呟く。 「やっぱり、凄いな……彼は」 軽い音と共に地面に着地する。 次にその音を大きく、激しくしたような音と共に剣を振り抜く。 一気に距離を詰めて、勢いを乗せた斬撃がワルドの内もう一人を斬る。 が、それも斬られると消滅する。 人一人斬っても尚余る勢いを、床を滑るようにして制動をかける。 バランスを崩しかけて、途中で片手を付いた。 「どれが本物か解ったりしないか?」 「それは無理」 「……全員叩けばいい話だな」 立ち上がり、後ろを振り向く。 ワルドが始祖像の下で杖を構えている。 青白い光は、既に消したようだ。 呪文を唱えて、彼らに向け杖を振り下ろす。 「『ライトニング・クラウド』!」 杖の先に、青い光が灯り、放電する。 後ろから、かすれた小さな叫び声が聞こえてくる。 「気をつけたまえ、ブルー! それを喰らえばただでは済まないぞ!」 轟音と共に、杖先から雷が放たれる。 デルフリンガーで受け止めるが、吸い込みきれない。 それどころか勢いに押されてだんだんときつくなってくる。 「相棒、このままだとジリ貧だぞ!」 その言葉に対して、彼らは剣を握る手を強めるどころか、 片手を離してしまう。デルフは思わず叫びかけるが、叫べなかった。 器用に、回転させる。今まで押されていた雷を押し返し始める。 そして最後には雷を弾くと同時に、青白い光と唸るような低い音を放ち始める。 「な、なんか嫌な感じがするんだが!?何というか折れそうな」 「確かかなり摩耗するからな」 「……もう少し優しく扱ってほしいな俺」 そのまま、地面を蹴ってワルドまで跳ぶように駆けよる。 ワルドは咄嗟に呪文を唱えて、『エア・ニードル』を纏わせる。 それで剣を受け止めようとするが、 デルフは何も遮る物が無いかのようにワルドの身体をあっさりと切り裂く。 だが、その姿もかき消える。 残り一人、本体であるだろう最後のワルドを探すために、辺りを見回す。 「離して!」 声のした方へ振り返ると、ワルドがルイズを捕らえて、杖を此方に向けていた。 ギーシュは突き飛ばされたのか、少し離れたところで倒れている。 「ルイズを離せ」 「そうはいかない。彼女は僕の目的のために必要なのでね ……君は優秀なメイジのようだ。 どうかね、君も『レコン・キスタ』……いや、私と共に来ないかね?」 「お断りだ」 「そうか、なら此処でお別れだ」 ルイズを捕らえている手とは反対の右手で杖を軽く振り、唱える。 「『ライトニ――』」 そこで唐突に、銀色が一閃。何かが宙を舞う。 解放されて、倒れ込むルイズ。彼らはそれを抱き上げて、駆け去る。 呪文を唱えていたワルドはそれを不思議そうに見て、詠唱を止める。 「『――ング…』……?」 そして、何かやわらかい物が落ちる音に対してそちらを振り返り、呟く。 「……何……だと……?」 落ちていたのは、左腕。 ワルドは自らの左腕があるはずの場所を見やる。何もない。 忘れていたものを今思い出したかのように、血が噴き出す。 「私のっ……腕がぁ……!?」 傷口を抑えて、ワルドはうずくまる。 ブルーも纏っていた光が霧散すると、胸を押さえてうずくまる。 左手のルーンの光も消えていた。 ギーシュがよろよろと立ち上がって、礼拝堂の椅子にもたれかかる。 しばらく、そのまま時間が流れた。 静寂は破壊音によって打ち砕かれる。 どこからか飛んできた砲弾により、礼拝堂の一角が崩れ落ちた。 遠くからの喧噪や爆音が聞こえてくる。 ワルドがそれを聞いて顔を上げる。 「な、何が起こってるの……?」 「攻撃が始まったか……!」 ワルドは立ち上がると、傷口から手を離し、血だらけの手で杖を握る。 「私はこんな所で死ぬわけには行かぬ……さらばだ」 「待ちなさい!」 ワルドは『フライ』を使い、崩れ落ちた一角から飛び去る。 制止などは、当然聞くはずもない。 遠くから聞こえてくる戦闘の音に、ブルーが呟く。 「逃げるか」 「どうやってよ」 「かなり先だが、タバサ達が来ている。 そこまで『保護のルーン』を使って行く」 ルイズはそれにうなずいて、歩き出そうとして立ち止まる。 そして俯いてから、振り返って始祖像の方に歩き出す。 「ルイズ?」 「ちょっと待って」 ルイズは始祖像までは歩かず、 その手前の事切れたウェールズの前でかがみ込む。 「…ご無礼をお許し下さい」 そう言ってから、ウェールズの手から『風のルビー』を外す。 外すときに、ルイズの手の『水のルビー』との間に光を作り出した。 なんとも場違いな、美しい虹色の光だった。 前ページ次ページゼロの使い魔・ブルー編
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6197.html
前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!! 「土くれを捕まえようと言うものはだれもおらんのかぁ!!」 冒頭から大声を出して怒っているのは魔法学院の最高責任者 オールド・オスマン その怒気にあてられても萎縮するばかりで教師陣は自ら動こうと言う気概のある者はいなかった 「・・・まったく・・・情けないわい」 職員室にオールド・オスマンのため息が響いた 話は前日の夜までに遡る その日、ルイズは魔法の練習を本塔近くで練習していた 「いやぁ、がんばるねぇ」 「ふん、とぉうぜんよ!!」 そこに現れたのはみなさんご存知、根腐博士 手には何かを持っていた。 「・・・それ何?」 「かき氷、がんばっているルイズ君、ご褒美にプレィゼントォ!!」 「ふ・ふん・・・貰ってあげない事も無いんだからね」 まるでツンデレの鏡のごとくそっぽをむきながらも受け取るルイズ そしてルイズは貰ったかき氷を一口食べて・・・ 「ぶほふっふぉふぉお!!」 盛大に噴出した。 「く・・・臭・・・海のオヤジの口臭・・・」 「ありゃあ・・・やっぱりまだ駄目だったか・・・エリック氷」 その後、怒りで我を忘れたルイズが爆発を乱発、本塔にひびが入ったり、 土くれのフーケのゴーレムが本塔を破壊したり、 学園の宝物の一つを盗まれたり、タバサがエリック氷を無表情で完食したりで今に至る 「まったく!!どいつもこいつも嘆かわしいわい!!」 教師陣の不甲斐無さにぶつぶつと文句を言うオールド・オスマン その時、ひとつの杖があがった 「私が行きます!!」 ルイズが手をあげた瞬間にドアが開き、更に上がる二つの杖、職員実の様子を覗いていたキュルケとタバサも杖を掲げる 教師陣は生徒が危ない、生意気な とか言うがオールド・オスマンの一喝で押し黙った そこにミス・ロングビルが土くれのフーケの情報を持って現れた 「ふむ、まったく情けない教師陣じゃわい、生徒の方がよっぽど貴族らしいわ」 ロングビルのお尻を撫でながら渋く決めるオスマン 「セクハラです!!」 そしてオスマンの腕を持ち上げて思いっきりぶん投げるミス・ロングビル 「セクハラです!!」 さらにぶん投げるロングビル 「ちょ・・・ちょっと待って」 「セクハラです!!」 投げられて空中で浮いてるオスマンを捕まえて背負い投げるロングビル 「ご・・はぁ!?」 「セ・ク・ハ・ラです!!」 必殺投げの間合いでオスマンをぶん投げるロングビル 「そ・・・それでは諸君、後は頼んだぞ・・・がくっ」 「「「杖にかけて!!」」」 こうして、ルイズ、キュルケ、タバサ、案内役のミス・ロングビル そして、 「いやぁ、ピクニック日和だねぇ」 「本当ですね博士」 「あんたら!!遊びに行くんじゃないわよ!!」 観光気分の博士ご一行は馬車に乗って土くれのフーケのアジトへと向かう 「ところで・・・盗まれた秘宝なんだけど どんなモノなんですか?」 「ミスタ・Cはご存知ないんでしたね、名前を破壊の・・・と言って」 そうこうしている内に一行は森の奥のフーケのアジトと思われる山小屋に辿り着いた 「あそこに秘宝があるのね」 「念の為に私は小屋の周辺を警戒してきます」 ミス・ロングビルと別れ、ルイズ一行はそっと山小屋に近づく もちろん、みんなお揃いのほっかむりと軽快なステップでの抜き足、差し足はお約束だ 「誰もいないみたい」 「じゃあとっとと中に入って秘宝を取り戻しましょう」 そうして山小屋の中に入った一行が見たモノは・・・ ルイズがそれを目の前に呟く 「こ・・・これが・・・学園の秘宝『破壊のヒト』なの・・・」 続く 前ページ次ページゼロの使い魔様は根腐れしてやがる!!
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2254.html
―――翌日 「起きてくださいマスター」 「ん~、もう食べられないわ…」 彼、ダイ・アモンのマスターであるルイズは幸せそうな寝言を漏らしながら布団にしがみついている。 「ええい、こちらが満足な食事も出来ずにいるのに幸せそうな夢を見やがってクソ忌々しいっ! 起きなさいマスター!」 「あと5分…」 「起きろって言ってるでしょうがこの平面胸のメスガキャァぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「キャッ!?」 バキィッ! と言う衝突音と共にベッドが激しく揺さぶられ、ルイズがその衝撃で床に落下。それと同時に響いた ズシンと言う振動は、ルイズではなくベッドそのものが落下したせいだろう。むやみに豪華な作りの見るからに 重そうなベッドが、さっきの衝撃で完全に宙に浮き上がったらしい。 「いきなり何すんのよこの…」 ベッドから放り出された時にぶつけた頭をさすりながら、ルイズが立ち上がると、 「…アンタ誰?」 そこにはフードを目深に被って顔を隠した、ローブ姿の男が立っていた。 「寝ぼけてるんですかマスター!? 私が(不本意ながら)貴方の使い魔になったダイ・アモンです!」 そう言われて、すぐに思い出した。ルイズが昨日呼び出したやかましくアホな使い魔の事を。 そして、思い出すと同時に怒りがこみ上げてきた。 「…思い出したわ。思い出したけど…朝っぱらからいきなり何すんのよ!」 「なぁ~にが『何すんのよ!』ですかこのボケナスが! 朝になったら起こせといったのはあなたでしょうが!」 売り言葉に買い言葉とはこのことか、あっと言う間に低次元な口喧嘩になる。とてもじゃないが自称伯爵と 公爵令嬢の会話には聞こえない。 「使い魔なら使い魔らしくもっと丁寧に恭しく起こしなさいよ! 「ムキー! 口の減らない小娘ですね! いくら丁寧に恭しく起こしても『あと5分~』とか言って一向に起きなかったのは誰ですか! おかげで余計な体力使っちゃったじゃないですか! 日中に力を出すのは重労働なんですよ!?」 「うぐっ…! それでも丁寧に起こすのが使い魔の仕事なのよ! それと、さっきドサクサにまぎれて平面胸とか言ったわね!?」 「ええ言いましたとも、事実を指摘したまでですがそれが何か問題でもあるってんですかこのスットコドッコイ!」 「平面じゃないもん! 少しは膨らんでるもん! 去年より成長してるんだからまだまだこれからだもん!」 「ほぉぉぉう、それは楽しみですねえ。せいぜい期待せずに待ってみる事にしましょう」 「あー、もうムカツクわぁぁぁぁぁ、今日はもう食事抜きよ!」 「え? なんですかそれ!? それはちょっと横暴ですよ!」 「うるさい! それよりも何よその格好! 人型に戻ったなら顔くらい見せなさい!」 ルイズがアモンのローブを掴んで引っ張り、アモンがそれを振り払おうとする。 口喧嘩から取っ組み合いにフェイズシフトしようかと言う時、部屋のドアが開き第三者が登場した。 「朝っぱらからうるさいわねぇ、いったいなんなのよ」 呆れたような声で入ってきたのは、ルイズとは対照的な肉体を持つ色気過剰少女、キュルケーだったのだが… 彼女はルイズの様子を一瞥するなり、獲物を見つけた猫科肉食獣のような笑みを浮かべた。 「…あらやだ、ルイズったら面白い趣向じゃない。お邪魔だった?」 揶揄するようなキュルケーの口調に、ルイズはようやく今の自分の姿に思い至った。すなわち “ネグリジェ姿の少女が男性の服を引ん剥こうとしている”としているという事に。 「ち、ち、ちちちちちちち違うわよ! これはそんなんじゃなくて!」 慌てて否定するが、キュルケーは完全にルイズいじりの体勢に入っている。 「照れなくてもいいじゃない。それにしてもルイズがそんなに大胆に迫るなんてねえ…」 「違うって言ってるでしょこの色ボケ!」 「で、そこの見かけないハニーはどこのどなた?」 ルイズの反論を無視して話を変えるキュルケー。当然確信犯(誤用)である。 「申し遅れましたね美しいお嬢さん。私はダイ・アモン伯しゃk…」 「アンタは黙ってなさい!コイツは昨日の使い魔! ハニーとかそんなんじゃないわよ!」 「あら、あなたの使い魔ってきのう召還した時はジャイアントバットだったじゃない。人型に化けたの?」 「違うわよ! コイツは吸血鬼でこっちが本来の姿!」 「へえ…驚いたわ。あなた、本当に吸血鬼を使い魔にしちゃったのね」 「何よ! 悪い?」 「悪いとは言わないけどねー、やっぱり使い魔ってのはこういうのじゃないとね。そうでしょ、フレイム」 キュルケーがそう言うと、彼女の背後からくけーと鳴き声を上げて大きなトカゲが姿を現した。 オレンジ系の暖色を中心としたカラーリングで、尻尾の先には炎が燈っている。 「おや、これはサラマンダーですか」 「やっぱり判る?」 「ええ、私のかつての主も良く使っておりました。もっとも、実体を持たない完全な精霊体のサラマンダーでしたが」 「へえ、サラマンダーにそんなのもいるなんて知らなかったわ」 「サラマンダーが使い魔ということは、お嬢さんは炎属性?」 「あら、中々わかってるじゃない」 「…主人を無視して勝手に話を進めてるんじゃないわよこの馬鹿使い魔!」 「へぶぎゃッ!」 部屋のインテリアである銀の燭台がアモンの頭部にクリーンヒット。使い魔吸血鬼は無様な声を上げて床に突っ伏した。 「まったく、何で私の使い魔はこんなヤツなのよ…」 「そんなに捨てたもんでもないんじゃない? そりゃ私のフレイムには劣るかもしれないけど、話のわかるいいヤツみたいだし」 「余計なお世話よ!」 ルイズにとっては、キュルケーに対しては「話しのわかるいいヤツ」らしく畏まって接するアモンが 余計に気に食わない。そんなルイズの様子を察してか、キュルケーはやや強引に話題を変えた。 「…ところで、さっきはいったい何してたの?」 話がそこに戻って、ルイズはようやく自分がしようとしていた事を思い出した。 「この使い魔はせっかく人型に戻ったのに、ご主人様である私にすらその姿を見せようとしないのよ!」 「そう言うことなら興味あるわね。吸血鬼ってどんな顔してるのかしら。」 キュルケーはあっさりとルイズの意見に同調した。この女が男の顔に興味を示さないはずがない、とはルイズの 心の声である。 「ああ、ムチプリバディの美しいお嬢さんまでそんなことを言うんですか!?」 敵が増えた事を悟ったか、アモンはフードをより深く被ると部屋の隅へと後退った。 徹底して顔は見せたがらない使い魔の態度に、ルイズは思わず怒りを爆発させそうになるが、 理性的に考えれとキュルケーの前で感情的に怒鳴り散らすのはあまり良い事ではない。 “落ち着くのよルイズ…素数を数えるのよ…素数は孤独な数字…私に勇気を与えてくれる…” 113まで数えたところでようやくルイズの心は落ち着いた。 平静を取り戻すと、今度はルイズの心の中の紳士が囁き出す。 “逆に考えるんだ…顔を隠したがる理由を聞けばいいと考えるんだ…” 「あー、もう何でそんなに顔を隠したがるのよ」 心の紳士のアドバイスに従いつつ、ルイズは先にこれを聞くことを思いつかなかった自分の至らなさを反省する。 失敗を反省し教訓として、次に繋げるのはルイズのポリシーである。 「ええ、説明してやりますから耳の穴かっぽじって良く聞きなさいよ! そもそも召還の際に日光で力を失ったのがいけないんです! 月と血で力を取り戻したとは言え、せいぜい3割程度! パワフリャで美しい私の姿に戻るには力が足りないのですよ! 貧弱かつ醜い私の真の姿を人目に晒す訳にはいきません!」 「なるほどねえ。そう言うことなら仕様がないんじゃないの?」 キュルケーはアモンの説明に納得したようだ(というより、醜いという自己申告を聞いて興味をなくしたようだ)が、 ルイズはそれで納得はしなかった。いや、顔を見せたがらない理由としてはアモンの言い分を理解したのだが、 それを受け入れる気はなかった。“この際だから徹底して弱みを握ってやろう”と言う結論に達したのである。 理由はそれだけではない。 「顔が醜かろうと、私は構わないわよ。むしろ醜いからって使い魔の素顔も把握してないなんてメイジ失格だわ! ダイ・アモン…これは命令よ! 顔を見せなさい!」 ここまで言うと、流石のアモンも諦めたようである。命令されたから爪を気にして受け入れただけとも言えるが。 目深に被ったフードに手をかけると、ゆっくりとめくり上げた。 「え?」 「やだ! 嘘!」 どんな恐ろしい顔がフードの下から現れるかと覚悟を決めて見守っていた二人の前に現れたのは、繊細そうな細面の 白皙の美青年だった。ただの美青年ではない。超美形といってもいいくらいのハンサムぶりである。 ルイズが唖然とする横で、キュルケーは「えーっ! これで醜いって、魔力を取り戻したらどうなっちゃうの!?」 とか騒いでいる。アモンはといえば、「これでもう用は済んだだろう」と言わんばかりに再びフードを被ってしまった。 それも「こんな貧弱な青ビョウタン顔を3人もの目に晒す事になるとは…この屈辱、決して忘れませんよ!」等と言う 捨て台詞付きで。 「…って3人? ここには2人しかいないじゃない…」 ルイズが疑問の声を上げて辺りを見回すと、3人目は確かに存在した。何時からそこにいたのか、入り口の前に クラスメイトのタバサが存在していたのである。 「って、タバサ? 何時からいたの?」 タバサの親友であるキュルケーさえ、存在に気付いていなかったようだ。 「…『アンタは黙ってなさい!コイツは昨日の使い魔!』あたりから」 「最初の方じゃない!」 つまり、この無口な少女は、この騒動をほぼ余すところなく観察していたのである。 ルイズはキュルケー以外の目にも失態を晒した事に目眩すら感じていた。 しかし、そこまで見ていたからには当然アモンの素顔も見ているはずなのだが、タバサの表情には 何の反応もない。キュルケーなどは思わず“さすがタバサ”と感心してしまう。 「で、何しに来たの?」 キュルケーの親友である以上、用事があるのはルイズではなくキュルケーであると考えるのが自然だろう。 ルイズとキュルケーもそう判断したのか、用件を質したのはキュルケーの方であった。だが、ある意味で 彼女の用件は両者に大きく関わるものだった。すなわち 「朝食の時間。もうすぐ終わり」 と言う事である。 「「な、なんだってー」」 仲良くハモる二人の悲鳴。その様子を見ながら、アモンは「実は凄く仲がいーんじゃないですかこの二人は」と思ったと言う。 「悪いけど、ルイズ…私は先に行くわ!」 そう言い残しキュルケーは食堂へ向けて走り去っていった。まるで風属性にチェンジしたかのような疾風怒濤振りであった。 「ちょっと待ちなさいよキュルケー!」 と言ってルイズも後に続こうとするが、自分がまだ寝間着姿のままである事に気付くと、 「ごめん、タバサ! また後で!」 と言って勢い良く扉を閉じ、着ていた服を脱ぎ捨てた。 「ちょっと、ルイズ様!? アナタ恥じらいってものがないんですか!?」 アモンが非難の声を上げるが、この際無視。本当は立場の違いをわきまえさせるために取ろうとしていた手段だが、 切羽詰った状況なので仕方がない。 「うるさいわね! 貴族って言うのは使用人相手に恥ずかしがったりしないものなのよ! そんなことより、その棚から着替えをとってちょうだい! 早く!」 いかにも渋々と言ったしぐさで命令を実行するアモンの手から着替えをひったくると、ルイズは早送りのビデオのような 速度で着替えを済ませ、部屋を飛び出した。あまりの勢いに呆然としていたアモンがようやく一息つくと、 「忘れてたッ!」 と言って戻ってきた。 「私がいない間に勝手にどこか行ったり誰かの血を勝手に吸ったりしないように!」 「へいへい、そのくらいはわかってますよー」 だいたい、吸血鬼は基本的に昼間は寝ているものである。いちいち釘を刺されなくても、ダイ・アモンには わざわざ何かをする気はなかった。だが、そんな彼の目論見は脆くも崩れ去った。ルイズは先の条件に、さらに 「その脱いだ服、洗濯しておきなさい! それと、今日の授業は基本的に使い魔同伴だから、 用事が済んだら教室まで来ること! わかったわね!?」 と言う要求を付け加えたのである。 「え? ちょっと! それマジですか!? ッて言うか吸血鬼を昼間に働かせるなんてアンタ鬼ですかっ!? ひょっとしてコキュトスに封印されてた悪魔ですか!? 暖かい人の血は流れてないんですかァァァ!?」 走り去るルイズの背中に向かい、吸血鬼は悲痛な声をあげた。 “まずはこの洗濯物をどうするか考えねばなりません” 考え込むダイ=アモン。とりあえず部屋から出るにも日光をさえぎる何かが必要だ。今着ているローブは、 実は魔力で編んだ紛い物で自分の体も同然だ。当然、日光を遮断する効果はない。と、言う事はとるべき手段は一つ。 「まー、ご主人様が洗濯とかしろって言うんだから必要なものは勝手に使ってOKですよねぇー」 そう言ってルイズの部屋を物色し始めた。まず衣装箪笥を漁ってみるが、着用できそうなものは皆無。 ルイズとアモンの対格差を考えれば当然の結果である。仕方ないので毛布を被る事にして、物入れの中から 見つかった舞踏用の仮面(マスケラ)を顔につける。視界を確保しつつ日光を避け、(アモンの美的感覚で)醜い 素顔を隠す事が出来るのだ。しかもこの手の(一般的に悪趣味っぽい)アイテムはアモンの趣味に合うのである。 傍から見ると「顔を仮面で隠し毛布に身を包んだ長身の男」と言う凄まじく不審な外見なのだが、このダイ=アモンという 男はそんなこと一向に気にしない。 「あー、めんどくせー」 そう言いながら、ルイズの服を持って移動を開始する。が、当然どこで洗濯をすれば良いかなどわかる筈もない。 出来るだけ直射日光に当たらないように建物内を移動していると、見るからに使用人と思しき女性が洗濯物を運んでいる。 “おおぅ、これはラッキー! 純正100%混じりっ気無しの生娘のニホイですねこれは!” 「済みませんがお嬢さん」 「え…きゃっ!」 悲鳴を上げるメイド。こんな不審人物に話しかけられれば当然の反応と言えるだろうが、そんな常識は当然アモンには 通用しない。 「人が礼儀正しく話しかけたと言うのに悲鳴を上げるとは何事ですか! 躾のなっていない使用人ですね!」 「もっ…申し訳ありません!」 理不尽な物言いだが、悲しいかな使用人根性の染み付いたメイドは反射的に謝ってしまう。 謝ってしまった後で“あれ? 何で私謝ってるんだろう…?”などと疑問に思うが後の祭りである。 「ム・ッウ~ン素直に謝るのは良い事です。その正直さに免じて今は許して差し上げましょう! ところでお嬢さん、洗濯と言うのはどこでどうすれば良いのでしょうか?」 相手が面食らっている事も気付かずに、用件を畳み掛ける。他人の都合など気にしない。 「あ、それなら向こうに水場が…ところで、その…失礼ですがどちら様でしょう? …あの、私はシエスタと申します」 メイドはメイドで、アモンの勢いに押されつい受け答えをしてしまう。本来なら悲鳴を上げて逃げ去っても おかしくない状況だが、どうもそのタイミングを逸してしまったようである。 実のところは、アモンがその視線に込められた魅了(チャーム)の魔力を発揮しているためでもあるのだが。 「これは申し遅れました、使用人のお嬢さん。私はダイ=アモン伯爵と申します」 丁寧な会釈をするが、毛布にくるまった仮面男なので怪しい事この上ない。この上ないのだが、視線の魔力で 警戒心の薄れているシエスタには外見の怪しさなど関係ない。 「あの…ひょっとしてミス・ヴァリエールの使い魔の?」 「まあ、不本意ではありますが現在はそう言う立場になっておりますねぇ。何でご存知なんですか?」 「え…あの、生徒の皆さんの噂になっていたので…」 「ほほぅ…さすが、私の美しさは早速人々の噂になっているようですね…まったく美しさは罪です!」 「ええ、まあ…」 シエスタが言葉を濁す。 当然、彼女が聞き及んだ噂はそんな内容ではなく「ゼロのルイズが物凄く奇妙な使い魔を召還した」と言うものだが。 「ところで、ワタクシは洗濯などした事ないのでどうすれば良いのか良くわからないんですが、 お嬢さんはどうやらこれから洗濯をなさるご様子。よろしければコイツもついでに洗ってもらえませんか?」 物凄く厚かましい要求だが、アモンの面の皮はこの程度で遠慮するほど薄くはない。元々雑用を押し付ける 心算もあっての魅了である。 「はい、その位でしたらお安い御用ですよ。寝間着と下着と制服ですね? 終わったらミス・ヴァリエールの部屋に届けておきます」 当然、軽く洗脳されたも同然なシエスタが断るはずもない。 「…ところで、アモンさんはなんでそんな格好を?」 アモンがその気になれば彼女を自我のない人形に変える事も可能だが、現在は自我を保ったままで 彼に対し逆らわないと言う程度にとどめてある。なので、現在は彼女が自分の意思でアモンに疑問を持ち、 質問をする事も可能だ。 「ええ、まあ直射日光に弱いので…」 そこまで言いかけて、アモンは現在抱えている問題を思い出した。 「そうでした。お願いがあるのですが、衣類の調達をお願いできませんか? フード付きのローブ、日光を通さないように黒で裏地付きの厚手のものを頼みますよ」 「ええ、わかりました。教師用のローブの予備ならすぐご用意できますが」 そう言うことなら、と言うわけで、洗濯よりまず先に備品類をしまった部屋に寄ると、アモンは教師用の ローブと皮の手袋を無事確保する事が出来た。そのまま適当に日の当たらない場所を探し、そこで毛布からローブに 着替えるのだが、ちょうどローブを着終わったところで 「あの、サイズは合って…ました…か?」 何気なくシエスタが顔を出し、硬直した。今まさに仮面を付けようとしているアモンの顔を見てしまったのだ。 ある意味で予想外すぎるインパクトに満ちた素顔を。 「…見ましたね…?」 怒りに震える声でそう言いながら、仮面を装着する。 「あ、いえ、その…」 凄みをきかせたアモンの物言いに思わず怯んでしまう。 シエスタは彼の全身から禍々しいオーラが立ち上るのを見たような気がした。 「見てしまったのですね、この私の醜い素顔を!」 “醜いって…どこが?” シエスタは思わず心の中で突っ込んでしまった。何かの冗談かとも思ったが、アモンは本気で素顔を恥じ、 本気で怒っている。 「ご…ごめんなさい! 申し訳ありませんっ!」 再び勢いに押されて謝るシエスタ。そんなシエスタに折檻を加えようとしたのか、アモンが片手を振り上げた時、 “カランカランカラン”と緊張感のない鐘の音が校内に響き渡った。 「…なんですか今の音」 「…あの、予鈴…です。もうすぐ授業が始まると言う…」 拍子抜けしたように拳を下ろしたアモンの質問に、まだ少し怯えながらもシエスタが答える。 「授業…?」と呟いたアモンの脳裏に『今日の授業は基本的に使い魔同伴だから、用事が済んだら教室まで来ること!』 と言うルイズの声が甦った。 「やっべー! こんな事してる暇はありませんっ! すぐ教室に向かわなければっ!…って、そうだお嬢さん!」 「は、はい!?」 「教室はどっちですか!」 「あっちですけど」 「ありがとうございます! それとさっきのアレは見なかったことにしなさい今すぐ忘れなさい決して他言してはいけませんYOooooooooooh! わかりましたか使用人!」 剣幕に押されて人形のようにカクカクと頷くシエスタを尻目に、アモンはそう言い残して全力疾走で去っていった。 とは言っても、パワー不足であるのでフラフラとよろめきながらの早足程度でしかなかったが。 シエスタはといえば、嵐のように現れて去っていった不審人物に対し、“一体なんだったのかしらあの人…”と言う 疑問を抱くと共に、“凄い美形だわ! ちょっとラッキーかも!?”と言うミーハー心理が彼女の脳内を 駆け巡っていたりするのだが。 もっとも、彼女は自分が本当に幸運だった事に気付いていない。 本来のアモンは人間をゴミクズ同然に扱う残虐な吸血鬼であり、激昂すれば衝動的に暴力を振るう凶人なのだ。 彼を怒らせた時点で、彼女は問答無用で惨殺されていたはずだった。だが、現在は昼間である。出歩くだけで重労働なのに、 今のアモンには素顔を隠すほどの魔力もなく、ルイズ起床時にベッドを蹴り上げたせいで体力も消耗している。怒りに 任せても殴りかかるだけの体力がないのだ。本当にシエスタは幸運だったのである。 ただし、アモンは執念深い。 「あのメイド、シエスタと言いましたね…後で必ず折檻してやりますよ…!」 幸運とは言っても、危険が先に延びただけの事であったが。